大学の社会学部や社会学科では、高校で習う社会科の範囲に限らず、この社会で起きているあらゆることについて考察を深めることができる。社会学とはどのような学問で、どのような研究が行われているのか、中村英代教授(日本大学文理学部社会学科)に聞いた。(文・写真 安永美穂、取材協力 関東社会学会)
どう生きるかを考える
――社会学はどんな学問ですか?
社会学とは、近代社会を考察の対象とし、世の中の「当たり前」を疑ってみる学問です。近代社会とは、王族や貴族が支配していた身分制の社会(封建社会)の後に成立した社会を指し、「私たちが生きている社会」とも言い換えられます。
自分にとって当たり前のことが、他の人もそうだとは限りません。一つの現象でも、人によって見え方は変わります。社会学は、社会をさまざまな角度からとらえることで、人々の多様性を認め、多様な人々が生きやすい社会を模索する学問だといえるでしょう。
――社会学を学ぶと、どんなことが分かるのでしょうか?
社会学を学ぶ過程では、私たちを取り巻く社会のしくみを知ることができます。例えば、大学生たちにとって大学進学は当たり前に思えるかもしれません。ですが、日本の大学・短大の進学率は57.9%(2018年度)で、約4割の人は大学・短大に進学していません。
社会の現実を知ると、「自分が今、社会の中でどのような位置にいるのか」が見えてきます。「自分がどう生きるか」を考えることにもつながります。
幅広い研究対象
――他の社会科学系の学問との違いは?
法学や経済学などが専門領域を深く学ぶのに対して、社会学は社会のあらゆることを対象に幅広く学びます。私のゼミでも、学生たちの研究テーマは「国際社会」から「ゲーム依存」や「アイドル」に至るまで、実にさまざまです。
また、社会学では心の問題に目を向け、「現代社会の生きづらさはどこからくるものなのか」を考察できます。大学で学生たちと関わっていると「自己評価が低い人」が本当にたくさんいると感じますが、こうしたことの背景には、個人の問題だけでなく社会環境も少なからず影響しています。個人の問題にとどめず、社会現象としてとらえる見方を身につけることは、社会を考察する上でも、日常生活で自分や相手を責めずに生きていく上でも役立つはずです。
――具体的な学び方は?
大学により異なりますが、1年次には社会学を学ぶ際に必要な調査の進め方なども含めた入門科目や一般教養科目を中心に学び、2年次から家族社会学や都市社会学といった専門科目を学ぶのが一般的です。多くの場合、2年次から発表やディスカッションなどを行う少人数での演習が始まり、3・4年次は自分が興味のある領域を専門とする教員のゼミに所属して、調査・研究に取り組んでいきます。
社会学部(社会学科)で学べる分野の一例
※日本大学文理学部社会学科で学べる分野をもとに高校生新聞編集部で作成(写真は日本大学提供)
1. 社会学の歴史や伝統的な考え方を学ぶ
社会学史、理論社会学、社会システム論 など
2. メディアや文化を学ぶ
マス・コミュニケーション論、メディア文化論、文化人類学、身体文化論 など
3. 人間の心理と社会の関係を考察
社会病理学、ジェンダー論 など
4. 家族や福祉、教育のあり方を考察
家族社会学、福祉社会学 など
5. 企業や労働者に関わる問題を考察
産業社会学 など
6. 都市のあり方や歴史を考察
都市社会学、歴史社会学 など
7. 災害に対する人々の意識や対応、メディアの機能を考察
災害社会学 など
中村英代教授(日本大学文理学部社会学科 教授)
なかむら・ひでよ 東京都出身。お茶の水女子大学文教育学部卒。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(社会科学)。専門は臨床社会学、社会問題論、ジェンダー論。専門社会調査士・社会福祉士。