理学部と聞くと、数学や理科を学ぶイメージがあるかもしれない。だが実際には、ただ学ぶのではなく、まだ解明されていないことを探究する活動がメインになる。千葉大学理学部で教える村田武士教授に、理学部の特色について聞いた。 (安永美穂)
工学と融合した研究も
――理学とはどんな学問ですか?
身の回りの物質や生物、地球、宇宙など、あらゆる自然現象に対する疑問を探究する学問です。自然科学の世界はいまだに解明されていないことがたくさんあります。これまでの研究で明らかになったことを深く掘り下げるとともに、最先端の研究にも取り組み、「世界でまだ誰も知らないこと」を解明していける面白さがあります。
――具体的な学び方は?
大学により異なりますが、一般的に1年次には基礎的な理論などを学び、2・3年次からは実験・実習の授業が多くなります。4年次では各自が取り組みたいテーマを扱う研究室に所属し、実験やフィールドワークに取り組みます。
――工学部との違いは?
理学部は従来、分からないことの探究を重視してきました。ですが、最近は人工知能(AI)を使って生物のメカニズムを解明するなど、工学と理学を融合した応用研究も数多く行われています。それらの研究を推進するために「理工学部」として設置している大学も多く、理学と工学の垣根はほとんどなくなってきたと考えてよいでしょう。工学を専攻した後に理学の研究をする人もいます。
好奇心旺盛な人向き
――どんな力が身に付きますか?
研究室に所属し、知りたいことを深く掘り下げていくに当たっては、まず基礎知識を身に付け、「何が分かり、何が分からないのか」を明確にします。その上で分からないことを解き明かすにはどうすればよいのかを考え、専門的な研究を深めます。問題解決能力や、一つのことを基礎や応用などさまざまな階層で理解する物事の捉え方は、将来どのような進路でも役立つでしょう。
――どんな人が向いていますか?
理学部で学ぶことは全て、自然現象に対する「なぜ?」という疑問が出発点になります。好奇心旺盛で、自然現象の不思議について知りたい気持ちが強い人は、大きなやりがいを感じられるでしょう。
日常的に英語で議論
――進路や就職先は?
大学院に進む人も多く、企業などで研究の仕事に就きたいなら修士課程、研究者を目指すなら博士課程まで進むのが一般的です。学部卒の場合は、一般企業への就職のほか、技術系の公務員や中学・高校の教員になる人もいます。
――高校時代に身に付けておくとよい力は?
研究の世界でもグローバル化が進み、英語の論文を読んだり、海外との共同研究において英語でディスカッションをしたりする機会が日常的にあります。読み書きだけではなく、英語で会話ができる力を身に付けておくと、進学後に役立つはずです。
また、生物学科で生物のメカニズムを研究する際に物理の熱力学の考え方を使うなど、学科を横断した理科の知識が必要となるケースも多々あります。理科は、入試で選択しない科目についても苦手意識を持たず、各科目の基礎知識を身に付けておきましょう。
理学部で学べること
- ※千葉大学理学部が設けている分野から高校生新聞編集部で作成(写真は千葉大学提供)
1. 数学・情報数理学
数学の理論や、それを応用する方法を学ぶ
代数学、幾何学、解析学、統計学、情報数理学 など
2. 物理学
自然界の法則を、実験や計算に基づいて追究する
素粒子物理学、原子核物理学、宇宙物理学、ナノサイエンス、生命・情報物理学 など
3. 化学
物質の構造や性質を研究し、役立つ物質を作る
量子化学、分子化学、無機化学、分析化学、有機化学、生体高分子化学 など
4. 生物学
さまざまな生命現象やそのメカニズムを研究する
分子生物学、生理化学、細胞生物学、発生生物学、生態学、系統学 など
5. 地球科学
地球の生い立ちから未来に至るまでを研究する
地質学、地球物理学、古生物学、鉱物学、海洋学、気象学 など
村田武士教授(千葉大学大学院理学研究院化学研究部門教授)
むらた・たけし 浜松日体高校(静岡)出身。東京理科大学基礎工学部卒。東京理科大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。専門は生体構造化学。創薬につながるタンパク質の構造や機能の解明に取り組む。