商学部はデータサイエンスを利用した研究が増えるなど、最先端の研究が進んでいる。目指すのは、ビジネスの観点を活かした社会課題の解決だ。明治大学商学部長の中林真理子先生に、どんな研究が行われているのかを聞いた。(野口涼)

環境問題にも商学研究が貢献できる

―これからの商学部の研究は社会にどう貢献できるでしょうか。

社会課題を解決するために、ビジネスの観点から関与できると考えています。

例えば、海洋プラスチック問題や地球温暖化問題を改善するための施策の一つに、「エコバッグの普及」があります。日本では2020年 7月、レジ袋の有料化がきっかけでエコバッグを持つ人が増えましたね。この施策が成功した理由の一つは「レジ袋の価格設定」です。価格を安く設定し過ぎれば、大多数の消費者はエコバッグを持ち歩くよりレジ袋購入を選んだでしょう。

環境問題に関する消費者教育はもちろん必要ですが、その上で「エコバッグを持って行った方が得をする」仕組みづくりが重要です。ビジネスの知識を使って、商学は社会に貢献できるのです。

商学部の学びが環境問題に貢献できる

SNSの「ビッグデータ」から消費を分析

―最先端の研究手法について教えてください。

データサイエンスを取り入れた研究が多くなってきました。例えば、商学の主要な一分野である「マーケティング」(消費者の行動を分析し、商品開発や既存商品に新たな付加価値を付けるなどに生かすための学問)では、SNSなどのビッグデータを解析し消費者のニーズを探る手法が非常によく使われるようになっています。

「どのようなモノ・サービスがエシカル消費(消費者が人・社会・地域・環境に配慮して製造されたモノを選んで購入すること)の対象として受け入れられやすいか」という研究を行うとき、少し前には消費者の心理や行動をモデルでパターン化したり、インタビューしたりしたことをベースに進めていくしかありませんでした。ところが今はSNSの投稿を何万件調べることが比較的簡単にできるわけです。

社会科学全般に言えますが、現在、エビデンス(証拠)のベースを「データの解析」に求める研究がどんどん増えてきています。データ処理は、おそらくどんな研究をする学生であってもできるようになっておいて損はありません。卒業してからも必ず役に立つでしょう。

 

中林真理子(なかばやし・まりこ)

1968年東京都出身 。小石川高校卒、明治大学商学部卒、同大学院博士課程修了。博士(商学)。専門は保険、リスクマネジメント。研究テーマは「企業のリスクとしての倫理的課題についての考察」。主な著書に『リスクマネジメントと企業倫理―パーソナルハザードをめぐって』(単著、千倉書房)など。2023年4月より明治大学商学部長。