湘南高校(神奈川)は、県内でも有数の進学校だ。サッカー部は2年前に創部100周年を迎えた。忙しい部活動と勉強をどう両立させているのか。9月に引退した前部長の須藤功大さん(3年)と、現部長の矢沢勇人さん(2年)に話を聞いた。(文・写真 小野哲史)

「勉強にも生きる」部員が練習メニューを決定

サッカー部の活動は、平日は放課後の約3時間。週末は試合が多く、試合がない日は午前、あるいは午後のどちらかに練習を行う。

県のU-18リーグ(K4)を戦いながら、全国高校選手権などの県予選を目指す。

3年生が中心になって普段の練習メニューを決める。試合で出た課題をもとに内容を決めており、着実に課題をつぶしていく「クレバーなサッカー」が持ち味だ。

サッカー部現部長の矢沢勇人さん(左)と、前部長の須藤功大さん

生徒自身がメニューを決める点は、勉強にも生かされているという。「がむしゃらに勉強するのではなく、一歩引いて計画を立てたり、もっと良くなる方法もあるんじゃないかと考えたりできるようになった気がします」(須藤さん)

「忙しさを言い訳にしない」塾とも両立

部活動が19時ごろ終わると、そのまま塾へ向かう部員も多い。矢沢さんが「自分は好きなサッカーをやりたくて湘南に入りました。本当にやりがいを感じているので、サッカーをやめたいと思ったことはありません」と言えば、須藤さんも「湘南でサッカーをやっていた5歳上の兄を追ってきました。自分もサッカーをやりたくてやっているので、それを他の言い訳にしてはいけないと思います」と力強い。

【須藤さん、矢沢さんの1週間の流れ】

月 部活動はオフ。授業後に自主トレ(筋トレ)を行い、塾へ向かう

火~金 部活動終了後、塾で授業or自習

土・日 午前練習の場合、午後から塾で授業or自習。午後から練習の場合は、午前中に自習をして、練習後の夕方から塾で授業を受けたり自習をしたりする

「移動時間も無駄にしない」電車では立って勉強

2人に共通しているのは「限られた時間を有効に使う意識が高い」という点だ。須藤さんは自宅から学校までやや遠く、電車に往復約2時間半乗っている。「移動時間を無駄にしたくない」と、通学時間を勉強に充てている。「電車内では寝てしまわないように、立ったままで単語帳を見るなど、できることをやっています」

【須藤さんの1日の流れ(引退前)】

6時20分 起床

7時 家を出る

8時30分~16時 授業

16時20分~19時 部活動

19時~21時40分 塾

23時10分 帰宅。風呂、夕食

24時 就寝

須藤さんの英語の教科書と、矢沢さんの英語のプリント。赤ペンや蛍光ペンでポイントを押さえ、何度も見返す

学校の近くに自宅がある矢沢さんは「家に早く帰れる分、勉強時間を確保しやすいと思います。でも、しっかり時間が取れなくても寝る10分前に単語帳を見るなど、隙間時間を見つけて、短い時間でもなるべくコツコツやるように意識しています」と話す。

【矢沢さんの1日の流れ】

6時30分 起床

7時30分 家を出る

8時30分~16時 授業

16時20分~18時 部活動

19時~21時40分 塾

22時30分 帰宅。風呂、夕食、勉強

24時00分 就寝

「勉強を教え合う」部の団結力もアップ

文武両道を求めることで、勉強とサッカーが相互に良い影響を及ぼしていると須藤さんは感じている。

「サッカー部の先輩たちが、空いた時間に図書館などで勉強している姿を見て、自分たちも行くようになりました。部員もそれぞれ得意、不得意な教科があるので、定期テストの前に教え合ったり、良い資料があれば共有したりしています。一緒に勉強すると仲も深まって、サッカーのプレーでの連携やチームの団結にもつながっているように感じます」(須藤さん)

「きつい練習を乗り越えられたら、勉強ぐらいいけるだろう」と考えている矢沢さんは、来年度から始まる受験生としての日々に不安は抱いていない。

空き時間に部員同士、図書館や自習室で勉強することも多い。それが部のチームワークにもつながる

屋比久(やびく)祐太朗監督は「目標設定だけはきちんとできるようにしてほしい。サッカーに本気で向かえれば、勉強も熱量を持ってできるはずです」と、部員たちの奮闘を温かく見守っている。

サッカー部の屋比久祐太朗監督

筆記試験×サッカー「文武両道」掲げた大会で優勝

8月、「ニッパツカップ2025」で湘南高校が優勝を飾った。神奈川県の企業・ニッパツ(日本発条株式会社)が「文武両道で頑張るサッカー部員を応援したい」との思いで立ち上げた大会だ。

英語、国語、数学の筆記試験からなる「文の部」、サッカーの試合で競う「武の部」で構成されている。厚木、多摩など公立5校6チームが参加、湘南からは2チームが出場した。

「ニッパツカップ」で試合をする湘南高校の選手(ニッパツ提供)

勉強する時間は「作れる」

取材の最後に、2人が部活と勉強の両立に悩む高校生にメッセ―ジをくれた。

「忙しいと思っていても、意外と時間はたくさんあります。部活をやっていても時間はあるので、お互いに勉強も部活も頑張りましょう」(須藤さん)、「時間はうまく使えば、24時間から部活や生活の時間を引いても、勉強できる時間は十分に作れると思います。僕はアプリを使って勉強時間を計っています」(矢沢さん)

充実した時間を過ごせる部活動なら勉強のリフレッシュにもなる。湘南高校サッカー部の部員たちは、時間をうまく使いながら、それぞれの目標達成に向かって突き進んでいる。

湘南高校サッカー部

創部1921年。部員43人(3年生15人、2年生14人、1年生14人)。1946年に国体で優勝し、48年は準優勝。全国高校選手権出場6回、関東大会優勝3回の実績がある。本年度は神奈川県U-18リーグ(K4・グループA)で優勝し、来季のK3昇格を決めた。選手権県予選は2次予選の1回戦で敗れた。