薬剤師を育成する薬学部では、具体的にどんなことを学ぶのだろうか。6年間の流れや、4年制との違いを、毎年薬剤師国家試験で高い合格率を誇る明治薬科大学の越前宏俊学長、齋藤望教授に聞いた。(文・野口涼、写真・明治薬科大学提供)
薬剤師目指し、薬を総合的に学ぶ6年間
―薬剤師を目指すには、薬学部でどう学ぶのでしょうか。
越前 薬学部には4年制の学科と6年制の学科がありますが、薬剤師になるには、6年制の薬学部薬学科で学ぶ必要があります。6年次の2月に行われる薬剤師国家試験の合格を目指し、薬を正しく使うために薬がどんな作用・副作用を持っているのか、体の中でどのように働くのかなどを総合的に学んでいきます。
―6年間の流れを教えてください。
越前 1・2年次には薬学の基礎科目である化学・生物・物理を学び、3年次からは「薬理学」や「薬剤学」など、薬剤師になるための専門科目を学びます。
例えば生体の機能とメカニズムを学ぶ「生理学」、薬として開発された化学物質の体内での働きを学ぶ「薬理学」、薬物の吸収や分解・排泄などを学ぶ「薬剤学」、薬の調合を学ぶ「調剤学」、薬の使い方を学ぶ「薬物治療学」などが挙げられます。
薬剤師は食品の衛生や生活環境の調査を行う役割もあるので、「衛生化学」分野の科目も必須です。

さらに、医療は社会制度の中で動いていますから、薬剤師法などの法律や、医療保険制度に関する知識も身につけなければなりません。「限られた保健医療財政の中でどの薬を選ぶか」という、医療経済学も学びます。4年次には研究室配属が始まり、卒業研究を通じて探求力や問題解決能力を卒業研究の遂行を通じて学びます。


実習前、2種類の試験にパス
―4年次になると、実習に備えるための試験があるそうですね。
越前 はい。5年次から始まる実習に向けて、準備ができているかを確認する試験です。知識はCBT(computer-based testing)で、実技能力はOSCE(objective structured clinical examination:客観的臨床能力試験)という試験です。この試験は臨床実習を行う国公私立全ての薬科大学・薬学部の学生が合格しなければなりません。

病院と薬局で実習、実際に調剤も
―実習はどのように行われますか?
越前 病院で11週、地域の保健調剤薬局で11週、合わせて22週間の実習で、薬剤師の業務を一通り体験します。例えば現場の指導薬剤師の監督の下で、処方箋を元に錠剤等を取り揃えたり、粉や液体の薬を正確に秤量し調剤したり、「製剤」と呼ばれる軟膏を作ったりする作業が行われます。
直接患者に接する業務も必須です。指導薬剤師と共に病院では病棟で、地域の保険調剤薬局ではカウンターに立ち患者に服薬説明を行います。最近、病院や薬局で「薬学生が実務実習を行っている」と広報するポスターを見かける機会も多いと思います。

薬学生の病院・薬局実習は見学型ではなく「体験型」です。入院している患者さんは点滴治療を受ける機会も多いので、輸液製剤をクリーンベンチ(埃や雑菌の混入を防ぎ、無菌状態で作業するための装置)を使用しての無菌調剤も学びます。実習を終えて6年次になると、いよいよそれまでの知識を振り返り学修し国家試験へ向けての勉強に本腰を入れます。
「薬を開発したい」なら4年制課程
―薬学部は4年制課程もありますが、6年制との違いは?
齋藤 4年制では薬を作る、いわゆる「創薬」する力のある人材を育てるための教育をしています。つまり「薬を使うために学ぶ」のが6年制の課程、「薬を作るために学ぶ」のが4年制の課程です。
―創薬とは何を行うのでしょうか。
高校生の皆さんは、創薬研究というと「ゼロから薬の種を見つける」というイメージを持っていると思います。今まで治療法がなかった病気に対して、画期的な新薬を見つけるのはとても素晴らしいことです。
ただ、薬の種を見つけてからも、実際に患者さんに使われるようになるまでに、やらなければならないことは山ほどあります。
臨床試験を突破した薬の種は、国から医薬品製造販売承認を得てはじめて薬として販売できます。市販後の調査や、安定した製造・供給も非常に大切です。これらすべてが4年制の薬学部や大学院で学ぶ「創薬」なのです。
齋藤望(さいとう・のぞみ)
1972年北海道旭川市生まれ。91年旭川東高校卒、95年北海道大学薬学部卒、2000年同大学大学院薬学研究科博士課程修了。博士(薬学)。専門は有機合成化学、有機金属化学。
越前宏俊(えちぜん・ひろとし)
1954年北海道生まれ。72年函館ラ・サール高校卒、78年北海道大学医学部医学科卒。78年国立国際医療センター内科、その後米国およびドイツ留学。86年博士(医学、東京大学)。専門は臨床薬理学・消化器病学。2020年より現職。