榎本杷留(はる)さん(青森・八戸聖ウルスラ学院高校3年)は今年、放送部の全国大会「NHK杯全国高校放送コンテスト(通称Nコン)」のアナウンス部門で優勝した。喉を痛めないよう、限られた時間でも効率よく練習。努力と工夫で「伝える力」をみがいてきた。放送部で活動する高校生記者の町屋結月さん(2年)が練習法や上達のコツを聞いた。(文・椎木里咲、写真・学校提供)
緊張を「自信」で克服
心地よい静けさに包まれたNHKホールでのアナウンスは、不思議と緊張しなかった。「大会の時は、本番前日に泊まるホテルで3時間くらいしか寝られなくなってしまうくらい緊張しやすいタイプ。でもNコンは、自分で自信を持てるくらい練習したから緊張しなかったんです」
人前に出るのが苦手だった
中高一貫校で、高校に上がるタイミングで放送委員会に入った。校内放送や行事の司会を務める先輩の姿にひかれ、あこがれたからだ。「中学の時は授業のプレゼンで息をするタイミングが分からなくなるくらい、人前に出るのが苦手。周りの子にアナウンスを始めたと知られたときは驚かれました」
腹筋やプランクで体づくり
放送委員会は、基本的に全体での放課後練習がなく、各自で練習に取り組んでいる。榎本さんは「喉が弱く、声を出しすぎると出なくなってしまう」タイプ。そこで、限られた練習回数で効果を出すため、発声だけでなく体づくりにも力を入れた。
腹筋やプランクを取り入れ、3〜4日に一度、30~50回行うペースで鍛えたという。「筋トレを始めてから『声が小さい』と指摘されなくなりました」と手応えを語る。
カトリック系の学校なので、毎朝お祈りの時間がある。「ご意向」と呼ばれる、3~4文程度にまとめられた文章を、全校生徒に向けた校内放送で読み上げる。「毎朝教頭先生が放送室の前に置いてくれるので、その場でアクセントをチェックしてすぐに読みます。全校生徒に向けて読むのはすごく緊張するけれど、『伝える』練習になっていると思います」
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【ある日のスケジュール】
6:30 起床
6:30~7:30 登校準備。眠い時はピアノを弾いて目を覚ます
7:30~8:00 登校
8:00~8:30 全校放送に向けて発声練習。「ご意向」の内容やアクセントをチェック
8:35~8:50 朝の放送
9:00~16:15 授業
16:15~17:00 放課後講習に参加。大学受験や模試に向けて対策する
17:00~18:00 放送室で練習。発声、活舌、早口言葉のあとに、原稿を通しで5~6回読む。
18:00~18:30 教室に戻って作業
18:30~19:00 帰宅
19:00~19:30 お風呂。入浴しながら発声練習をする日もある
19:30~21:00 ご飯を食べてから自由に過ごす
21:00~22:00 歴代優勝者のインタビュー記事や、アナウンサーの本を読んで知識を蓄える
22:00~23:30 勉強
23:30 就寝
早口言葉で苦手を克服
苦手な「ら行」と「な行」は、早口言葉で克服した。「『戸棚の中にはバナナなどが並べられている』などの早口言葉に取り組みました。3回連続ですらすら言えたら次の早口言葉をやる、として鍛えて……、長いものだと3週間くらいかかりました」
家では、歴代の優勝者のインタビュー記事や、アナウンサーが書いた本を読んで知識を蓄えた。優勝者のCD音源を聞いて、自身のアナウンスの参考にもした。
優雅で余裕のあるアナウンス
顧問の石田博継先生は、榎本さんのアナウンスを「活舌練習もしっかり取り組んでいて、声質にも恵まれたクリアな読み」と語る。「Nコンでは、出場者の中で一番落ち着いているように見えました。聞いた瞬間に『これは1位になるかも』と思うほど、優雅で余裕のあるアナウンスだった」(石田先生)
「光景が浮かぶ」ような原稿
加えて石田先生は、「原稿の完成度がとても高かった」という。「どこに出してもほめられる原稿でした」
榎本さんがテーマにしたのは「タヒチアンダンス」の全国大会で優勝した家庭科の先生。中学時代の担任で、高校に上がってからも気にかけてくれた、大好きな先生だ。「アナウンスは伝えたい内容があって、伝えたい人がいることが前提。原稿では『打楽器に合わせた力強い腰の動きと、生の草花を使った華やかな衣装でタヒチの自然を表現します』などの文章を盛り込んで、タヒチの風景が聞いている人に伝わるよう工夫しました」(榎本さん)
「マイクの向こうには人がいる」と意識して
高校3年生の榎本さんは、受験勉強の真っ最中だ。「Nコンなどの大会を通して、やっぱり放送は楽しいと思いました。声の仕事に就けたらいいなとも思いつつ、取材をしたり番組を作ったりするのも楽しくて……。夢を見つけるために進学したいです」
最後に、全国でアナウンスに取り組む高校生に向けて上達のコツを教えてくれた。「ただ読むだけだと機械的になる。自分が出したい音、読みたい読み方にすると、自分本位なアナウンスになって伝わらない。一人で練習しているときも『マイクの向こうには聞いている人がいる』と意識すれば、上達すると思います」
【取材後記】放送部以外の高校生も参考になる
全国大会で優勝した方の話を聞けて、とても有意義な時間でした。緊張した時の気持ちのコントロール方法や、ただひたすらに「練習する」だけでは自分に自信を持てないという話など、放送部に入っていない人でも聞いてほしいです。取材はとても緊張しましたが、気持ちが和らぐくらい落ち着いた声で話してくれました。私も放送部に入っている身として、今回取材できた貴重な経験を大切にしながら、さらに自分の力を高めていきたいです。(高校生記者・町屋結月=2年)


















