経済学部と聞くと、お金の動きを分析するイメージを持つ人が多いのでは。実際は、社会全体についてさまざまな切り口で学ぶことができる、懐の深い学問だ。神戸大学経済学部長の中西訓嗣教授に、経済学部についての疑問に答えてもらった。 (木和田志乃)
幸せの在り方を解明
――経済学とは何を学ぶ学問ですか?
経済学にきちんとした定義を与えることは、実は簡単ではないのです。高校生の皆さんは、経済学に対して「お金もうけ」「景気」「株」「為替」などのイメージを持っているかもしれません。それらは経済学の重要なトピックですが、「人々はなぜ教育を受けるのか」「なぜ少子高齢化や環境問題が起きるのか」など、一見、経済学とは無関係に見えるテーマも分析対象です。
複数の人間がいて社会が成り立っていれば、そこには経済学が分析するテーマがあります。経済学は、社会の中での人々の活動、制度や組織の機能と役割、社会そのものの変動を分析し、「人々の暮らし向き」や「幸福」の在り方を解明しようとします。夫婦2人の家計から国際的な商取引まで、とても幅広い学問領域を持っているのです。名前が似ている「経営学」とは、全体を見渡す視点から社会を捉えている点が異なります。
社会全体を分析する
――どんな力が身に付きますか?
経済学は、「複雑な社会の中で、人々の行動が他人にどう影響するのか」「社会全体を俯瞰(ふかん)したときにどのような状態になっているのか」などを短期・長期という時間視野の違い、直接・間接的影響の違いなどを意識しながら分析します。
そのためには、社会問題の背景にある動機や誘因(経済学用語では『インセンティブ』)を見いだし、人間を理解する姿勢が必要です。課題を見つけ出して分析する力も付きます。このように、経済学を勉強すると、仕事や生活の上で必要な知識を得るだけでなく、社会全体を分析する方法が身に付きます。経済学部は「問題を分析・解決するための方法を学ぶ場」だといえます。
論理的に考える人向き
――具体的にどう学んでいるのですか?
神戸大学を例にお話しします。1、2年生で基礎を学んだ後、3年生から1クラス10人程度のゼミが始まり、専門書の輪読や共同研究などを行います。金融、社会政策、歴史、思想など、専門分野を選び、学修を深めていきます。
ゼミの研究成果を発表する場として旧制商科大学を前身とする一橋大、大阪市立大との「三大学対抗ゼミ」が毎年行われるほか、国内外の大学との合同ゼミやワークショップも活発に開かれています。最近では卒業論文を課さない大学も増えていますが、本学では研究の集大成として重視しています。
――経済学部で学ぶのに向いているのは、どんな人ですか?
夫婦や家族、地域、学校、会社、日本全国、世界中など、社会の規模はさまざまです。そうした社会に広く関心のある人が、経済を学ぶのに向いています。例えば、「専業主婦(夫)の家庭は、どう意志決定していて、社会全体にどんな影響を及ぼしているのか」など、論理的に考えることが好きな人が向いていると言えます。
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経済学部で学べる分野
- ※神戸大学経済学部が設けている分野から高校生新聞編集部で作成(写真は神戸大学提供)
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理論分析 伝統的な経済理論を学ぶ
ミクロ経済学、マクロ経済学、ゲーム理論
歴史分析 過去に起こった経済現象を分析
西洋経済史、日本経済史
計量・統計分析 経済成長などの数字データの分析
計量経済学、統計学
技術・環境分析 技術発展や環境保全などを経済学から分析
環境経済学、現代技術論、開発経済学
産業・社会政策 高齢化や社会保障など政府は何をすべきかを考察
社会政策、産業組織論、労働経済学
金融・公共政策 年金のあり方など、政府の政策を考察
公共経済学、財政学、金融政策論
国際経済政策 国と国の間で生じる経済現象を考察する
国際政治経済学、国際貿易論、国際マクロ経済学
比較経済政策 主要な国・地域の経済を比較して研究する
現代中国経済論、ヨーロッパ経済論、アジア経済論
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中西訓嗣教授(神戸大学大学院経済学研究科長・経済学部長)
なかにし・のりつぐ 広高校(広島)出身。広島大学経済学部卒。神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程修了。経済学博士。専門は国際経済学。時差がサービスの国際貿易に果たす役割に関心。