大学の社会学部や社会学科では、高校で習う社会科の範囲に限らず、この社会で起きているあらゆることについて考察を深めることができる。社会学とはどのような学問で、どのような研究が行われているのか、中村英代教授(日本大学文理学部社会学科)に聞いた。(文・写真 安永美穂、取材協力 関東社会学会)
偏見のメガネを外そう
――高校時代にやっておくとよいことは?
「これはこういうことだ」「こうあるべきだ」と決めつける“偏見のメガネ”を外す経験をしておくとよいでしょう。例えば、電車の女性専用車をどう思うかに関しても、性別によって評価は変わってくるものです。
ニュースで自分には理解できない出来事を見聞きしたときは、「あり得ない」と否定するのではなく、「どういうこと?」「この人はどういう気持ちなのかな?」と好奇心を持って考えてみましょう。自分の当たり前を疑い、他者への想像力を働かせる経験をしておくと、社会学を学ぶときに役立ちます。
生活そのものが学びに
――高校時代の勉強とはどのような点が関連するのでしょうか?
教科としては現代社会や政治経済との関連が強いですが、「学校でこんなことが楽しかった、嫌だった」「このアニメが好き」「ニュースでこんなことを知った」といった、高校時代の日常生活でのさまざまな経験が社会学の勉強では生きてきます。
例えば、「大学に行ける人と行けない人がいるのはなぜ?」と考えると格差と貧困の問題に突き当たりますし、どのグループに所属するかによって教室の中での力関係が決まるスクールカーストは差別問題を考えることにつながります。学校という場は社会の縮図ともいえるので、日々の暮らしそのものが社会学の学びだといえるのです。
自分なりの意識が生かせる
――どのような人が社会学の勉強には向いているのでしょうか?
どんな人でも、自分なりの学び方ができるのが社会学の特徴です。大勢で過ごすのが好きな人・一人を好む人、毎日が楽しい人・つらい人、それぞれに「なぜ自分はこう感じるのか」「社会からどのような影響を受けているのか」を考えることで、自分の問題意識を社会とつなげていくことができます。ですから、「社会のこういう問題について深く考えてみたい」という人はもちろん、「自分はダメだ」とネガティブになりやすい人も、社会学を学んでみることには意義があると思います。
――社会学を知る上でおすすめの本はありますか?
大学進学を考えている人には、『日本の分断 切り離される非大卒若者たち』(吉川徹、光文社新書)をおすすめします。大学に進学しない若者の実情を知ることで、いずれは大学生になる自分が社会の中ではどのような位置にいるのかが見えてくるはずです。『「あたりまえ」を疑う社会学 質的調査のセンス』(好井裕明、光文社新書)も、社会学の考え方が分かりやすくまとめられています。
私自身が執筆した『社会学ドリル この理不尽な世界の片隅で』(中村英代、新曜社)では、社会学を学ぶ意義や、恋愛と結婚、男らしさ・女らしさといった身近なテーマを社会学の観点からはどうとらえることができるかを解説しています。
中村英代教授(日本大学文理学部社会学科 教授)
なかむら・ひでよ 東京都出身。お茶の水女子大学文教育学部卒。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(社会科学)。専門は臨床社会学、社会問題論、ジェンダー論。専門社会調査士・社会福祉士。