法学部に興味があるけれど、実際にどんなことを学ぶのかイメージが湧かない……。そんな高校生に向けて、法学部で法律について学ぶとはどういうことなのか、中央大学法学部の遠藤研一郎教授に聞いた。   (安永美穂)

 

法律の暗記が目的ではない

――法学とはどんな学問ですか?

法学は、人々が生活していく中でどのようなルールがあればよいのかを探求する学問です。学んでいく過程で、それぞれの法律の内容を理解する必要はありますが、法律の条文を丸暗記することを目的としているわけではありません。

――法学部では、どのようなことを学ぶのでしょうか?

大きく分けると、「解釈論」と「立法論」の2つがあります。解釈論とは、既存の法律がどのように運用されているかを学ぶものです。法律の多くは、抽象的な言葉で書かれています。そのため、実際の生活の中でどんな使われ方をしているかを知るには、過去の判例などを調べて「この法律はこういう意味なのだろう」ということを一つ一つ解釈していく必要があります。また、立法論では、既存の法律が現在や将来の社会にとってふさわしいものなのかどうかを、新しく法律をつくることも視野に入れながら考えていきます。

自分の信念を持つこと

――法学部で学ぶのに向いているのは、どんな人ですか?

法律を用いて問題を解決していくためには、今、社会でどんなことが起き、どんな議論がなされているのかをリサーチした上で、議会の資料や過去の判例、さらには諸外国の法律なども丹念に分析して考察をまとめる必要があります。広く社会の出来事に関心を持ち、コツコツと真面目に努力することをいとわない人が向いているといえるでしょう。

法学には絶対的な解はなく、何を正義とするかも一人一人違います。ですから、客観的なデータを集めたり、人の話をよく聞いたりすることはもちろん大切なのですが、「こういう考え方が認められる社会であってほしい」という自分の意見や信念をしっかり持ち続けることも大切です。

説得する訓練を重視

――法学部で学ぶと、どんな力が身に付きますか?

法学は唯一の解がある学問ではないので、自分の意見を理解してもらえるかどうかは、相手をいかに説得できるかにかかってきます。多くの人に納得してもらうには「なぜこのようなルールになるのか」という根拠をしっかりと説明できなければなりません。法学部では学生同士で議論する機会が多く、論理的に考える力や相手を説得する力を身に付けるためのトレーニングも重視しています。

――卒業後の進路は?

法学部で学ぶことで身に付く力は、将来どのような道に進んでも役に立つものです。そのため、卒業後は法科大学院に進むなどして司法試験を受けて裁判官・検事・弁護士といった法律家を目指す人のほか、公務員になる人、金融機関・メーカー・商社などをはじめとする民間企業に就職する人など、さまざまな進路を選ぶ人がいます。

社会をよくする情熱を

――高校生にメッセージを。

法学は少数派の人々の権利を守ることも重視するので、貧困に苦しむ人々のように社会から忘れられてしまいがちな弱者に寄り添い、社会に対して必要な政策を提案できる学問でもあります。数の理論ではない正義を追求できるのも、法学の魅力といえるでしょう。

いじめも外交問題も、世の中で起きている物事の中で法律と無関係のものはありません。条文をただ言葉として捉えるのではなく、「法律を通じて少しずつでも社会をよくしていこう」という情熱を持って法学を学ぶ人が増えることを期待しています。

 

遠藤研一郎教授(中央大学法学部教授)

えんどう・けんいちろう 中央大学附属高校(東京)、中央大学法学部卒。中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了。法学修士。共著「高校生からの法学入門」(中央大学出版部)では、恋愛など身近な話題を法学の視点から解説。