工学と聞くと、機械や工場などをイメージしがち。だが、これらの伝統的な「ものづくり」に加え、情報や環境などの「こと」、さらには「社会」や「未来」まで、工学の対象は広がっているという。東京大学工学部長の大久保達也教授に、最新の工学部の特色について聞いた。(安永美穂)

 

ものづくりだけじゃない

――工学とはどんな学問ですか?

明治時代の殖産興業に始まり、工学は、土木・機械・電気・化学などの「ものづくり」の学問として発展してきました。ですが、近年ではその対象が「もの」だけにとどまらず、環境・エネルギー・情報・健康・医療といった「こと」にも広く対応する学問へと進化しています。

――理学部との違いは?

一般的には「さまざまな現象が起こる理由を明らかにする基礎研究をするのは理学部、技術開発などの応用研究をするのが工学部」と考えられがちですが、これは正確ではありません。新しい技術や仕組みを生み出すには、最先端の基礎科学もしっかり学ぶ必要があるので、工学部では基礎と応用の両方に取り組みながら研究を深めていきます。

「なぜこうなるのだろう?」という考察を深める一方で、「どうすれば人々の生活に役立つ『もの』『こと』を生み出すことができるのだろう?」と考え、それを実現することで社会に貢献できる。これは工学部ならではの魅力です。

文系科目学ぶのも大事

――これから工学を学ぶ人に期待することは?

工学を学ぶことは、現代社会が抱えるさまざまな問題を解決していく上でも役立ちます。例えば、国連が2030年までに解決すべき国際目標として掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」に盛り込まれている、健康、エネルギー、技術革新、まちづくりなどの課題は、いずれも工学と深く結びついています。工学を学ぶ人には、自らが学んだことを生かし、まだ世の中にない「もの」「こと」を生み出すことで、世界に変革をもたらすことが期待されるといえるでしょう。

ただ、現代社会が抱える問題は、一つのテーマに取り組むだけで解決できることは少なく、いくつもの問題が複雑に絡み合っている場合がほとんどです。そのため、工学を専攻する場合でも、社会や経済の仕組みをはじめとする文系の知識もしっかりと学んでおく必要があります。ですから、文系科目の学習もおろそかにせず、文理にとらわれない幅広い教養を修得してほしいと思います。

研究者志望なら博士号を

――工学部卒業後の進路は?

エンジニアや研究者になる人もいれば、工学の知識を生かして経営や科学技術政策の立案といった仕事に携わる人もいて、進路は実に多様です。もちろん多くの女性も活躍しています。工学部は対象とする領域が広いので、自分がやりたいことを軸として、未来を切り拓いていくことが可能です。

また、工学部は大学院への進学率も高く、世界で活躍するには博士号を取得する必要があります。研究者を目指す人、より専門性の高い仕事に就きたい人は、大学院進学も視野に入れて進路を考えるとよいでしょう。

学部生でも国際経験積める

――高校生にメッセージを。

まだ世の中で明らかにされていないことを追究していくという学問そのものの面白さを味わいながら、人々の役に立つ「もの」や「こと」を生み出すことで社会とのつながりも実感できる、工学は非常にやりがいのある学問です。その学びは広く世界に開かれていて、学部生のうちから海外の研究者が集う学会に参加するといった国際経験を積める機会も多数あります。

今はまだ学びたいことを絞り込めていないという人は、ぜひ各大学のオープンキャンパスに足を運び、さまざまな学科の研究内容に触れてみてください。

大久保先生と大久保先生そっくりのフィギュア

大久保達也教授
(東京大学大学院工学系研究科長・工学部長)

おおくぼ・たつや 
早稲田高校(東京)、東京大学工学部卒。東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。工学博士。九州大学工学部助手、東京大学工学部助手・講師・助教授を経て現職。日本のナノテクノロジー研究の第一人者。