「推し活」にハマり、SNSで情報を集めたり、グッズを買いそろえたりしている高校生は少なくない。中には、お金や時間を費やし過ぎて後悔してしまうケースもある。推し活に依存せず、健全に楽しむためのポイントを精神科医の松本俊彦さんに聞いた。(安永美穂)

人と競い始めたら要注意

―高校生から「推しの情報を集めるためにずっとSNSに張り付いてしまう」「後先考えずにグッズをたくさん買って後悔してしまう」などの声が寄せられています。ただ「推し活」を楽しんでいる状態と、「依存」的な症状に陥っている状態の違いは?

「推し活依存」は学術的に正式な依存症とは認定されていませんが、依存症的な症状を示すケースはあると考えられます

自分が無理なく楽しめる範囲で推しの情報を集めたり、グッズを購入したりしている分には一般的な「推し活」です。「推し活依存」には該当しません。

ただ、SNSなどの推し活コミュニティーでは、推しへの貢献度を競い合い、「より多くの課金をしている人が一目置かれる風潮」があります。「認められたい」という承認欲求から多額のお金をつぎ込んでしまうケースは、「推し活依存」に陥っている可能性が高いと言えるでしょう。

推し活依存の症状と予防法

10代は金銭感覚がまひしやすい

―「推し活依存」になりやすい年代は?

どの年代でも、推し活にのめり込んでしまう人はいます。ただ、その中でも10代は、自由に使えるお金が限られているのに推し活にお金をつぎ込むケースが多いです。そのため「推し活依存」が問題として表面化しやすい年代だと言えます。

大人世代であれば、どれくらい働けばいくら稼げるのかが感覚的に分かっているため、推し活の予算も立てやすくなります。しかし10代は大人のような金銭感覚がありません。最初は恐る恐るお金を使っていたにもかかわらず、徐々に浪費の感覚がまひして高額をつぎ込んでしまうことが少なくなく、注意が必要です。

自分の価値を確認したくて依存に

―「推し活依存」に陥ってしまう原因は?

対人関係の中で傷つく体験を重ねた人や、これまでに周囲から認めてもらう経験がなかった人は、自分の立ち位置に不安を感じ、どんな言動をすれば周囲から必要とされるのかを日頃から模索していることが少なくありません。

そのような人が推し活のコミュニティーとの接点ができると、情報やグッズを持っていることを周囲から「いいな」と言われることによって自分の必要性や価値を確認するようになり、推し活に依存しやすくなると考えられます。

自分自身への投資も大切

―健全な推し活をするために気を付けるべきことは?

推しを好きになったり、推しのグッズを集めたりすること自体が悪いわけではありません。ただ、それはあくまでも自分の気持ちの表れとして楽しめる範囲にとどめ、情報やグッズをどれだけ持っているかを、人と競争しないようにしましょう。

自分に投資するよりも他の誰かに尽くすことに喜びを感じる行動パターンが身に付くと、後々の人間関係でも自分のことを大切にできなくなってしまうおそれがあります。推し活の他にも、自分のやりたいことが見つかったら、そちらにも時間やお金を投資してみてください。そうすれば、推し活を健全な範囲で楽しめるのではないでしょうか。

松本俊彦先生

まつもと・としひこ 精神科医。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長、同センター病院薬物依存症センター長。薬物依存症や自傷行為に苦しむ人などを診療する。著書に『世界一やさしい依存症入門』(河出書房新社)など。

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