授業中に何度も落ちる黒板消し。生徒からの「集中できない!」という声を受け、御影高校(兵庫)放送部が解決に立ち上がった。黒板消しや黒板のメーカーへの取材や調査を重ねた様子を映像作品にまとめ、「第72回NHK杯全国高校放送コンテスト(Nコン)」で発表した。(文・中島洋尚、写真・学校提供)
黒板消しが落ちまくる
御影高校の教室では、授業中、「黒板消しの落下」が毎時間のように繰り返される。生徒が通りかかった際、黒板に触れた時はもちろん、教壇付近の床が強く振動しただけでも黒板消しは落ちる。
生徒たちが「ビクッとします」「落ちると集中力がそがれる」と感想を漏らす、学校の日常の困りごと解決に、御影高校放送部が乗り出した。
黒板の整備業者やメーカーに取材
落下の主な原因は、黒板最下部の「粉受け」と呼ばれる溝と黒板消しの大きさのミスマッチだ。溝の幅5センチに対して黒板消しの幅は7センチで、2センチ大きい。教員、生徒それぞれ10人程度に話を聞いたり、黒板の整備業者らにも取材したりして、粉受けと黒板消しの大きさに関する謎を探った。
黒板メーカーを訪問し、粉受けの幅が校舎の建築当時(1980年)、兵庫県立高校で共通の設計基準だったと知った。加えて黒板消しメーカーにも話を聞くと、黒板消しのサイズは昔と変わっていないことが分かった。
同じ悩みを解消するため、黒板の取り換え工事を済ませた学校があることも分かった。そこで「私たちの教室も取り換え工事をしませんか?」と校長先生にたずねるも「どこかから寄付がいっぱい来たら」と煮え切らない。
黒板消しを自作して解決
「よし、私たちで解決しよう」と、アイデアを持ち寄り、「粉受けにクリップを付けて拡張する」「細い黒板消しを自作する」「黒板消しにマグネットを付ける」と実用できそうな3案を提案。教員ら計24人に試してもらうと、22人がマグネットで黒板に貼り付く黒板消しを絶賛した。
番組のラストは、愛情たっぷりに「粉受けさん、黒板消しさん、これからも仲良くね!」というナレーションで締められる。
Nコンテレビドキュメント部門で優勝
御影高校放送部の取材に基づくテレビ番組「落ちルンです」は、今年7月、Nコンのテレビドキュメント部門で優勝(全国1位)を勝ち取った。部員10人全員で作り上げた作品だ。着想から取材、撮影、構成、編集を経て完成まで約10カ月を費やした。
テーマや構成の軸は、光森詩紡(しほ)さん(3年・前部長、7月引退)が考えた。作品作りは「身近なテーマ」を掘り下げるのが部の伝統だ。昨年8月の「ネタだし会議」で光森さんの提案した「御影の黒板消しってよく落ちるよね」という意見が、部員の共感を最も得て、作品の主題となった。
前副部長の阪本理香(りこ)さん(3年)は「光森のサポートや後輩たちとのコミュニケーション、意見のすり合わせを担当しました」という。
面白くわかりやすい番組目指し
誰が見ても面白い、わかりやすいと思ってもらえる番組を目指し、先生や生徒のみならず黒板メーカーなど多くの関係者に話を聞いた。粉受けの規格が、なぜ黒板消しの幅より狭かったのか。校長を通し県に問い合わせたが、当時を知る人がおらず、取材では、真相は分からなかった。
数秒のシーンを2時間以上かけて撮影
「一度映像ができたら全員で見て、『もっとこうしたほうがいいんじゃないか』と意見を出すのも大事にしました」と光森さん。作品で黒板消しが転がる数秒しか流れないシーンを、角度やパターンを変えながら2時間以上かけて撮影したこともあったという。
提出締め切り2週間前からは、編集を直すたびに10人の部員全員のミーティングで意見を出し合い、修正を繰り返した。
粘り強さが優勝の決め手
一昨年の第70回大会は同部門で準優勝だった。今回優勝できた要因について、江崎先生は「時間がない中でも粘り強く取り組めたのが決め手」と話す。「番組として完成したのもうれしいですし、教師が困っていたことも解消されて大助かり」(江崎先生)
全国の頂点に立ち、校内の教育環境の整備にも大いに貢献した光森さんと阪本さんは、先生の言葉を聞き、うれしそうにほほ笑んだ。
- 御影高校放送部 3年生2人(7月引退)、2年生4人、1年生4人の計10人。週4日、放課後に活動。過去のNコンでは第65回大会と第72回大会テレビドキュメント部門準優勝、第66~70回大会テレビドキュメント部門優良賞、第71回大会ラジオドキュメント部門優良賞受賞。今年度は「第49回全国高校総合文化祭」放送部門のビデオメッセージ部門でも優秀賞を受賞。


















