テンポを上げながら、幾度となく繰り返されるメロディーが苦痛を誘う体力テストの種目「シャトルラン」。シャトルランの音は、どうしてこんなにも不快な気持ちになるのだろうか。旭川東高校(北海道)放送局は、「究極のシャトルラン」を作るべく、新たな音作りに奮闘し、その模様を収めたラジオ番組を制作。番組作りに携わった局員たちに制作エピソードを聞いた。(文・中田宗孝、写真・学校提供)
「聞きたくない」「悪夢」…嫌われるシャトルラン
「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド、『ドゥン!』、ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド……」。体育館に「20mシャトルラン」で使用される電子音が響きわたる。小中高校生が取り組む体力テストでの一幕だ。往復ランの繰り返しで体力が削られていく中、無機質に鳴り続けるこの音を苦手に感じる生徒は多い。
そんな「シャトルランの音」に着目し、ラジオ番組を制作したのが旭川東高校放送局だ。早速、局員たちが校内でシャトルランの音に対する意識調査を行うと、85%もの生徒が「嫌い」との結果が出た。「聞きたくない」「悪夢」「小中のトラウマが走馬灯のようによみがえる」。にべもない、散々な言われようである。
嫌われる理由は「5拍子」にあった
なぜこうもシャトルランの音は嫌われるのか。音楽心理学専攻の大学教授に見解を求めた。「シャトルランの音は5拍子になっています。日本語の歌は主に2拍子や4拍子なので、5拍子だとタイミングがつかみにくいんです」
教授によると、変拍子が嫌悪感を抱く要因の一つであり、「単調な音色に、ドラムなど別の音を加えて変化をつけてみては」との改善策も授かった。
「究極のシャトルラン」音作りに奮闘
局員らは「究極のシャトルラン」の音作りに乗り出した。試行錯誤の末、「4拍子に変更した音」「ドラムサウンドを加えた音」「従来の電子音に女子生徒の声援を交えた音」の3パターンを用意。起死回生となる「シン・シャトルラン」の完成だ。早速、運動部の男子生徒1人に試してもらった。
しかし、4拍子に変更した音は「音の区切りが曖昧で走りづらい」、ドラムサウンドを加えた音は「余計な音でペース配分が狂う」と、男子生徒の反応はイマイチ。好感触だったのは、女子生徒による「その調子!」「ファイト!」「カッコいい!」といった声援入りの音だけだ。
果たして全国の学校がこの音源を使うだろうか……。現行のシャトルランの音は、自分たちの想像以上に、高校生の間に深く刷り込まれているようだ。
気を取り直し、文部科学省に新たな3パターンの音を提案。採用こそ断られたものの「専門家との検討会議は毎年続けている」との回答を得られた。シャトルランの音を変える可能性は残され、局員たちは一筋の光を感じながら、番組はエンディングへと向かう。
Nコンで準優勝に輝く
制作に約5カ月を費やしたラジオ番組「シン・シャトルラン」は、7月に行われた放送部の全国大会「第71回NHK杯全国高校放送コンテスト」のラジオドキュメント部門で準優勝に輝いた。
制作メンバーは、麸澤咲子さん、木田澪さん、太田風花さん(いずれも2年)の3人。同じメンバーで1年次にラジオ番組を作った経験をもとに、「音」を扱うと決めた。「番組テーマを『音』にすれば、音だけで何かを伝えるラジオの特性を最大限に生かせます」(麩澤さん)。「音」の題材を探る中で、メンバーの太田さんの「シャトルランの音が嫌いなんだよね」との一言に、一同共感し、番組の方向性が定まった。
「真面目にふざけた」せりふ回しにこだわり
番組構成は全編にわたりエンタメ色を強くした。心底楽しんだ制作時を振り返り、3人は「私たちは面白いものが好き」「真面目にふざけてます」「聞き手に笑ってほしい」と話す。
中でも、麩澤さんが情感を込めに込めた声を届けるナレーションには笑いを誘われる。「年に一度、平穏な高校生活を破壊するシャトルランの音」「春にシャトルランの音を聞くだけで弁当の味もしなくなる」。そんなせりふの言い回しの妙も光った。不安をあおるBGMや、制作側の心情を乗せたピアノの効果音なども巧みに挿入し、3人は細部まで「音」にこだわり抜いた。
「取材した内容を単に紹介するだけでなく、私たち制作側の考えも盛り込む。それが番組作りで大切」(麩澤さん)。彼女たちは、新たなシャトルランの音を作ることで「高校生ならではの独自視点」を番組内で示した。
さて、今後の行動は聞き手に委ねられたのだ。「このままでは『あの地獄』を体験し続けることになります(笑)。苦しい、嫌だな、そう思ったとき、私たちの番組がシャトルランの未来を照らす問題提起となれば」(木田さん)
受賞作品はこちら。
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旭川東高校放送局
創立時期不明(1969年に活動歴あり)。局員16人(3年生5人、2年生6人、1年生5人)。授業日に放送室などで活動。主な大会受賞歴は、「第44回NHK杯全国高校放送コンテスト」創作テレビドラマ部門優勝、「第57回NHK杯全国高校放送コンテスト」テレビドキュメント部門優勝。2024年度は「第71回NHK杯全国高校放送コンテスト」ラジオドキュメント部門「シン・シャトルラン」で準優勝。