「時間を忘れるほどSNSを見てしまう」「ゲームがなかなかやめられない」といった症状がある人は、「依存症」に陥る可能性がある。依存症とはどのような状態なのか、精神科医の松本俊彦さんに聞いた。(安永美穂)
デメリットが大きくても「やめられない」病気
―「依存症」とはどんな状態で、どんな種類があるのですか?
依存症とは、その行為のデメリットがメリットを上回っているにもかかわらず、行為をやめたり頻度を減らしたりできない状態を指します。
大きく、「物質依存」と「非物質(行為)依存」に分類されます。現時点で学術的に「依存症」と認められているものは「アルコール」「薬物」「ギャンブル」「ゲーム」の四つです。
ただ、このほかにも、SNSを見るのをやめられない、自傷行為を繰り返すなど、依存症的と言える行動は数多くあると言えます。
ストレスやトラウマが原因に
―依存症を引き起こす原因は?
日々のストレスやいじめ被害などのトラウマ、近しい人との不和など、つらいこと全般が依存症の原因になり得ます。プレッシャーのかかる状況で追い詰められている人が、そのつらさを紛らわせようとして依存症を引き起こしたり、あるいはその状況を乗り越えた後の息抜きとして始めたことがやめられなくなったりするケースもあります。
―ストレスやトラウマが原因になるんですね。
ただし、ストレスやトラウマなどを抱えている全ての人が依存症になるわけではありません。たまたま手の届く範囲に依存できるものがあったり、周囲に同じことをして気晴らしをしている友達がいたりといった環境的な要因が重なることで、心のハードルが低くなり、依存症に至るケースが多いのではないかと考えられています。

高校生は薬物依存やゲーム依存が多い
―高校生世代に多い依存症は?
最も多いのは市販薬への依存で、ゲーム依存も多く見られます。特にオンラインゲームでは、そのコミュニティーの中で認められたいという承認欲求が関係していることが多いです。
SNSについては正式な依存症とは認定されていませんが、依存症的な症状を示すケースが増えています。
日常生活に支障をきたしたら病院へ
―依存症の症状や、病院にかかるべきタイミングは?
自分が本来やるべきことをやらずに、物質や行為への依存を優先してしまうのが典型的な症状です。高校生であれば、依存がエスカレートして学校に行けないなど、日常生活に支障が出ているといった場合は、精神保健福祉センターなどの相談窓口を利用したり、依存症の治療を行う医療機関を受診したりすることを検討する目安になります。
正式な依存症ではありませんが、買い物や「推し活」に使う金額が大きくなり、親の財布からお金を抜き取るような事態になっている場合も、早めの対処が必要です。
ゲームの時間を隠し始めたら「依存症」の可能性が高い
―高校生からは「ついついスマホでゲームをしてしまう」などの声が寄せられています。「依存症」と「依存症『予備軍』」の違いは?
スマホのゲームに夢中になるあまり勉強や予定していたことができなくなってしまったり、自分が長時間ゲームをしていることを家族や友達に隠し始めたりするようであれば、「依存症『予備軍』」のレベルではなく、「依存症」の可能性が高いと言えます。
「鍵アカ」につらい気持ちを書き留めて
―依存症の予防や改善のために、高校生ができることは?
つらい気持ちを言葉にして書き留めることが重要です。モヤモヤした感情は抱え続けていると増大して依存の原因になりがちですが、言葉にすると程よい距離感が生まれ、感情をうまく排せつできることも多くあります。
SNSの鍵付きアカウントなど、他の誰にも見られないところで気持ちを言語化して自分の感情と向き合う時間を持つことは、依存に代わる健全な対処法を考えるきっかけにもなるはずです。
相談相手は適度な距離感のある人を
―自分が依存症かもと思ったら、誰に相談すればいい?
スクールカウンセラーなど、私生活での接点が少ない適度な距離感のある相談相手を見つけることが重要です。周囲の大人に相談しづらい場合は、地域の精神保健福祉センターなどの相談窓口の利用もできます。
-
松本俊彦先生
まつもと・としひこ 精神科医。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長、同センター病院薬物依存症センター長。薬物依存症や自傷行為に苦しむ人などを診療する。著書に『世界一やさしい依存症入門』(河出書房新社)など。
編集部にあなたの声を聞かせてください
この記事はLINE公式アカウント「高校生新聞編集部」をフォローしてくれている読者の声をもとにつくりました。あなたもぜひ、読者参加企画に協力してください