「工学部と理学部って何が違うの?」。そんな疑問を抱く高校生も多いはずだ。東京大学大学院工学系研究科長・工学部長の加藤泰浩先生に、工学部で学ぶ内容や理学部との違いを聞いた。(野口涼)
知識を「活用」する学問
—工学部では何を学べますか?
高校の普通科には物理・化学・生物・地学といった「理学」につながる科目はありますが、「工学」につながる科目はありません。ですからそもそも「工学とは何か」というのが高校生には分かりにくいかもしれませんね。もしかしたら、油にまみれて機械をいじっているイメージしかないのではないでしょうか。
理学といわれる学問の目的は、自然の真理を探究することです。一方、理学によって蓄積された知を実社会で活用すること、ひいては人類の発展に寄与することを目指すのが工学であると考えています。といっても実は理学と工学の境界はあいまいです。
―加藤先生は理学部出身とうかがいました。
はい。私自身を例にとると、出身学部は理学部地学科で、地球が誕生して以来46億年の間に地球表層環境がどのように変動してきたのかを解明する研究に取り組んできました。いわば地球の進化の本質に迫りたかったわけです。
その過程で深海の泥の中にレアアースという非常に貴重な金属が含まれていることを発見しました。理学の領域を超え、現在は工学系研究科に所属して国産レアアース資源の開発と社会実装を目指すプロジェクトを進めています。
世界へ安全な水を届けたい
—最先端の工学研究にはどのようなものがあるのですか。
東京大学で行われている研究の中からいくつかご紹介します。
「サイエンスの社会実装」の典型例に、小熊久美子准教授(都市工学科)の「紫外線水処理の開発」があります。水中のさまざまな微生物に紫外線を照射する基礎実験によって、消毒効果を明らかにし、実験データをふまえて消毒装置を開発。現在はベトナムやタイ、フィリピンといった国々や国内過疎地の人に安全な水を届ける取り組みを行っています。
医療分野の研究も
新しい融合領域の開拓も積極的に行われています。染谷隆夫教授(電気電子工学科)は人の皮膚に低刺激性の電子回路を貼り付けて、体温や血中酸素濃度などを長期間にわたってモニターできる「e-skin」を開発しました。
酒井崇匡教授(化学生命工学科)は、手術時の止血剤などとして利用できるゲル(固体と液体の中間の物質形態)の開発に取り組んでいます。どちらの研究も理学をベースに工学的に作り上げたものを医療に応用していく。まさに領域の融合といえるでしょう。
加藤泰浩(かとう・やすひろ) 埼玉県立浦和高校、東京大学理学部地学科卒業。同大学大学院理学系研究科博士課程(地質学専攻)修了。理学博士。専門は地球資源学・環境学。 2023年4月より現職。千葉工業大学次世代海洋資源研究センター所長兼担。