新型コロナウイルスの影響で夏のインターハイを辞退した札幌山の手高校(北海道)が、ウインターカップ(全国高校バスケットボール選手権大会、2022年12月23日〜29日開催)で準優勝に輝いた。エースの森岡ほのか(3年)に次ぐ得点源として、準優勝に大きく貢献した岡井遥香(3年)の成長を紹介する。(文・青木美帆、写真・日本バスケットボール協会)

緊張したら損「絶対に楽しむ」

長い手足をめいっぱい動かしてコートを駆け回り、ベンチでは激しい身ぶり手ぶりと大きな声で仲間を盛り上げる。チームとして11年ぶりに進出した決勝戦の選手紹介でも、緊張した様子を見せるどころかテレビカメラに向かってポーズをとり、チームメイトからたしなめられていた。緊迫したゲームの合間にたくさんの笑顔を見せた札幌山の手の選手の中でも、岡井遥香はひときわ明るく輝いていた。

練習してきた3ポイントシュートを決め、ポーズをとってチームメイトたちにアピール

「明るいのは元々なんですけど、今大会は特に『緊張したら損。楽しんで終わりたい』と思っていました。自分たちはインターハイに出られなくて悔しい思いをしたので、ウインターカップは絶対楽しんでやろうと思ったし、実際に日本一楽しめたと思います」

岡井は大会を振り返ってそう言った。

コーチから怒られても「落ち込んだら負け!」

一昨年の3位以上の成績を狙った昨年のウインターカップは、無念の2回戦敗退。エースの森岡ほのかが1人で39得点を挙げたが、他の選手の得点が続かず、スタメンとして出場していた岡井も4得点しか取れなかった。

「森岡だけのチーム」。周囲からそう言われるのがたまらなく悔しかったという岡井は、以来、「ほの(森岡)が止められたときは自分が点数を取る」という意識をずっと持って練習に励んだと話す。

大きなストライドを生かし、ゴール下にドライブで切り込んでいく岡井

年間を通して磨いたのは、ゴール下での得点。173 センチの身長で、180センチ台のセンターから得点するためには高い技術が必要不可欠なため、上島正光コーチからは常に怒られ、時には練習を外されることもあった。上島コーチから特に言われた言葉があるかと尋ねると、「がさい」という返答。「ださい」「だらしない」という意味の北海道弁だが、岡井は「落ち込んだら負けなので、『もっとできるぞ』っていう意味だととらえていました」と、前向きにファイトし続けた。

「自分だけのシュート」を身につけ

また、11月に行われたウインターカップ予選後には、それまでほぼ打っていなかった3ポイントシュートの取得にも着手した。「予選でチームの3ポイント不足を感じたので、自分がコーナーの位置から打てたら武器になるかなと思って」

ゴール下の練習もあるため、時間が潤沢にあるわけではない。岡井は1本1本のシュートをていねいに検討し、名シューターと呼ばれる選手たちのプレーを映像で確認しながら、自分だけのシュートを身につけていった。

日本を代表するシューターから学び、きれいなワンハンドシュートを身につけた

「渡邊雄太さん(NBAブルックリン・ネッツ)は、フォロースルー(シュートを打ったあとのフォーム)を参考にさせてもらいました。富永啓生さん(ネブラスカ大)があんなに遠い距離から軽く打てる理由を知りたくて、どうやって体が連動しているかに注目しながら動画を見ました。映像を研究する時間のほうがシューティングよりも多かったかもしれません」

こうした努力は、大会本番でもしっかり発揮された。U18日本代表としても活躍した森岡が各チームから徹底マークを受ける中、岡井はゴール下、ドライブ、3ポイントシュートとさまざまなシチュエーションから得点を重ね、ディフェンスも的を絞らせなかった。

大会通算得点は125得点(1試合平均20.5得点)で森岡に次ぐ2位。インターハイベスト8の明星学園(東京)、同大会準優勝チームに完勝した岐阜女子(岐阜)といった強豪チームの撃破は、岡井の成長なしには実現しなかったかもしれない。

劣勢、コートに立てない、悔しい…あふれる涙

決勝戦は相手の好守に対応できず、ファウルもかさみ、ベンチで試合を見守る時間帯が多かった。「いつ出てもいいように」と心の準備をしながら、交代起用された後輩たちに大声で指示を送り、好プレーに全力で喜んだが、試合終了が近づくと、勝手に涙が流れ出した。

試合は劣勢。点差が覆ることはないとわかりながらも、コートに立つ仲間たちは最後まで自分たちのプレーを全力で貫こうとしていた。すぐ手が届く場所にいるのに、コートに立てない。「力になれないのが悔しい」という思いがあふれて止まらなかった。

ただ、「最高の舞台に立てたんだから、最後は笑って終わろう」と、試合終了後はベンチに戻ってきた選手を笑顔で迎え、円陣の音頭を率先して取った。表彰式で優秀選手賞として名前が呼ばれると、驚きながらも応援席に向かって大きくポーズをとり、みんなを笑わせた。

「最初の2試合はあんまり調子が上がらなかったですけど、そこからはどんどん上がってって、準決勝の岐阜女子戦はめっちゃ楽しかったです。その楽しさを決勝に全部持ってこうと思ったんですけど、そううまくいかないですね。自分のやりたいプレーを全然やらせてもらえなくて、ちょっと悔しい思いが残ってしまいました」

「まだまだやれる!」次の目標へ

悔しさをにじませながらも、岡井は明るくすがすがしくメディアに対応し、卒業後の目標についても口にした。

「自分が進む大学はトップレベルの成績を挙げているようなチームではないんですけど、自分が入って強くなったと言われるようにしたい。それで、どんどんアピールして、Wリーグ入りを目指してます!」

不完全燃焼の「がさい」プレーで終わってしまった高校ラストゲームは、次の舞台で晴らす。「上島さんがいなかったらここまで来られなかった」という恩師の言葉を再び「まだまだやれる」と変換し、岡井は夢に向かって進んでいく。

岡井遥香(おかい・はるか) 北海道出身。札幌市立陵陽中出身。小学4年生でバスケットボールを始める。ポジションはセンター。173センチ、63キロ。2位になった得点ランキングに加え、1試合最多スティール(8本)のランキングでも1位に輝いた。