U18日本代表に選出されるなど、「世代ナンバーワンプレーヤー」の呼び声が高い瀬川琉久(りく)(京都・東山3年)。高校1年次に味わった挫折を糧に大きな成長を果たし、昨年決勝で涙を飲んだインターハイ制覇を目指す。(文・写真 青木美帆)

Bリーガーに引け取らず

5月に行われた日本代表の育成キャンプ。Bリーガーやアメリカの大学でプレーする選手が集う味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都)で、17歳の高校生が彼らに引けをとらないプレーを見せた。日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチは「(こんな高校生がいるなんて)ショック!」という一言で瀬川を評した。

育成キャンプで学んだ技術を用いながら、複数人に囲まれながらも落ち着いてシュートを放つ

巧みなボール操作

昨年12月の全国高校バスケットボール選手権(ウインターカップ)初戦で40得点をたたき出し、一躍スターとして頭角を現した。身長184センチとガードポジションの選手としては背が高く、ボール操作も巧み。さらには状況や相手に応じて落ち着いてプレーを選択できる賢さも備えている。

「もちろんびっくりしましたけど、『自分が行っていいの?』とは思いませんでした。自分が目標とするA代表(年齢制限のない日本代表)のガードに大きく近づくチャンスをいただいたので、『思い切っていろんなことを収穫しよう』と前向きにとらえていました」

キャンプに招集されたときの心境を語る言葉からも、地に足ついた自信がうかがえた。

負け試合を繰り返し見る

目標とする選手はいない。BリーグやNBAもほとんど見ない。そのかわり自分の試合、特に負け試合は何十回も繰り返して見るという。

「悪いプレーをスローモーションで見ながら、できたこととできなかったことを分析して、練習して。そうしたら試合で急に新しい技が生まれたりすることがあるんです」

瀬川はこともなげにそう言ったが、すでにあるものをいたずらに追い求めるのでなく、あくまで自分にフォーカスし、考え、必要なものを選び取れる力こそが彼の持つ一番大きな力なのかもしれない。東山の大澤徹也監督も「これまで日本にいなかったような選手になれるかも」と期待を寄せている。

高校で初めての挫折

小学6年生から中学3年生まで公式戦無敗という、誰もがうらやむキャリアを歩んできた瀬川は、「オフェンスのスタイルが自分に合うと思った」という理由で東山に進学。入学直後からレギュラーとして試合に出場したが、思わぬ壁にぶつかった。

ボールをコントロールしながら得点のチャンスを探る

「高校に入るまでは負ける感覚がないと言いますか、『どうせ勝てるだろう』『なんとかなるだろう』みたいな感覚でやっていたところがあったんです。でも高校に入ったらインターハイにもウインターカップにも出られなかった。プレーのほうも中学の財産でやっているというか、周りの方からは評価していただいていたけれど自分では全然納得していなくて……『どうしたらいいんだろう』って、ものすごくへこみました」

新しい代の初陣となった新人戦も、府大会決勝で敗北。危機感を募らせた瀬川は半ばルーティンで取り組んでいた自主練習を、試合を想定した動きを多く取り入れたものとするようになった。

「武器」磨き得点力UP

そして淡々と練習に打ち込む中で、かつての「自分の武器」を思い出した。

「中学3年のときはジャンプシュートが得意だったのに、高校では先輩たちにびびって得点を取りに行けず、武器のない、すべてにおいてあいまいな選手になってしまっていたことに気づきました。トッププレーヤーは誰もが武器を持っているし、自分もそれを身に付けなければいけない。そう考えて、もう1回ジャンプシュートを磨いたことで、自分のバスケット人生は大きく変わったと思います」

中学時代からの武器としているジャンプシュートの技術は高校生離れしたものだ

得点力がぐんと増した。「ボールをコントロールする」という新しい役割も担った。高校2年次のインターハイは準優勝。ウインターカップは優勝した福岡第一(福岡)に逆転負けし、ベスト8。瀬川にとっての「勝ち」……すなわち「全国制覇」には届かなかったが、「バスケキャリアで一番成長した」と胸を張れる1年を過ごし、失意に沈んだ高校1年次を「『負け』を経験したからこそ大きく成長できた」とポジティブに振り返られるようになった。

リバウンドを全員で徹底

今年の東山は瀬川、司令塔の佐藤凪(2年)、ゴール下の守護神カンダ・マビカ・サロモン(2年)と昨年のスタメンが3人残り、控えメンバーにも実力者がそろう布陣。アップテンポな展開からさまざまな選手が3ポイントシュートを狙う、華やかなバスケットを見せてくれそうだ。

「水物と呼ばれる3ポイントシュートを、いかに安定させて決めきれるかが鍵。そして、課題のリバウンドを全員で徹底してやることが優勝につながると思います」

新型コロナウイルスの影響で、中学時代は観客や声だし応援が制限された大会がほとんどだった。高校初の全国大会となった昨年のインターハイで、初めて大勢の観客の前でプレー。「バスケットってこんなに楽しいんだって思える大会になりました」と振り返る。

「チームを勝たせる」

瀬川は自分のキャリアプランについてゴール地点からの逆算で考えている。現在思い描く最も大きな目標はA代表の先発ガードになることで、そこに至るための経験を「材料集め」という独特な表現で説明。そして、高校における最大の目標はウインターカップ優勝で、そのためにも「インターハイで優勝したい」と力を込めて言った。

高校3年間で磨いた技術と経験を発揮し、まずはインターハイの頂点を狙う

「去年のウインターカップでは、(逆転シュートを決めた)福岡第一の崎浜秀斗選手に『これがエースだ』と思わされました。今年は、最後に競った場面でチームを勝たせるのは僕の仕事だと思っているので、勝負強さや決め切る力を磨いて、インターハイを戦いたいです」

昼休みは英語を勉強

近年バスケ界は、八村塁(NBAロサンゼルス・レイカーズ)や渡邊雄太、富永啓生(ともに男子日本代表)のように、高校卒業後に海外に出る選手が増えている。瀬川は「どんな進路を選択するかはまだわからない」としながらも、いつか海外でプレーする日を想定して 英語に力を入れている。

昼休みは自ら英語の教員に頼んで英会話に付き合ってもらい、練習中は英語話者のサロモンと会話。寮でも時間を見つけて勉強しているが、2月にアメリカで行われた国際キャンプでは「コミュニケーションが取れなくて本当に苦労しました」。近々オンライン英会話を始める予定だという

せがわ・りく

2006年8月14日、兵庫県神戸市生まれ。本山南中卒。家族の影響で小学1年生からバスケを始める。オフの楽しみは買い物や映画鑑賞。今年2月にはアメリカで開催された国際キャンプにも参加した。七三分けは去年から採用。「去年からツーブロックがOKになったので、ちょっとおしゃれにしました(笑)」。184センチ76キロ。