宇都宮北高校(栃木)男子バスケットボール部は、今年1月の県新人戦で優勝するなど、公立の強豪校として注目されている。最大の武器である「コミュニケーション力」をどうやって磨いているのか、組織運営のコツなどを主将や監督らに聞いた。(文・写真 青木美帆)

「組織力の高いディフェンス」目指して

今年1月の県新人戦で悲願の初優勝を飾り、6月のインターハイ予選でも3位と上位進出を果たした。しかし、コート全面を使えるのが平日週3日、冷暖房なしという、「ごくふつうの公立のバスケットボール部」だ。飛び抜けて背の高い選手がいるわけでもないが、県内の有望選手が集まる強豪校の中を勝ち抜いた1つの理由が、組織力の高いディフェンスだ。

「いいディフェンスをして、相手のミスを誘って、早い攻めで点をとる。それが僕たちのスタイルです」(大内康生主将・3年)

大内主将(写真左)と池田監督。4月に着任した池田監督は部員たちを「素直で実直にプレーできる選手たち」と評する

関東大会を10日後に控えた5月の取材日も、1対1から3対3、4対4、5対5と人数を増やしながら、いくつものディフェンス練習を実施。「OK!」「カバー!」「3線!」。ディフェンスを担う選手たちは、絶えず大声で言葉を発し、仲間たちに状況を伝える。コート脇で見守る選手たちも同様だ。

【1日のスケジュール】限られたスペースを有効活用

池田将大監督が練習に遅れたり参加できなかったりするときは、大内主将を中心に、3年生が練習メニューを決める。コートが半面しか使えない火曜と木曜は、部員を2グループに分けてウエートトレーニングとチーム練習を行う。

「それぞれ45分程度しかできないので、メリハリをつけて行動するよう促します。チーム練習ではセットオフェンスの確認などハーフコートだからこそできるものを行うようにしています」(池田監督)

練習の合間に何度か挟み込まれる「男気フリースロー」は名物メニュー。1人の部員がフリースローを打ち、成功したら他の選手たちが制限時間内にオールコートを3.5往復ダッシュする。走ることに対してポジティブになれるメニューだ。

5対5は4チームに分かれて実施。1ゲーム終わるごとにチーム同士で集まり、内容について話し合っていた

朝練や全体練習後の自主練では、シューティング、1対1、トレーニングなど、それぞれが自分の課題に応じて取り組む。参加は任意のため、スタミナに不安のあるエースの磯野隼大さん(3年)はシャトルランを実施している一方、大内主将は7時半から教室で受験勉強にいそしむなど、文武両道も可能だ。

<オールコートを使える日のある日のスケジュール>

7時~8時20分 自主練習

16時 授業終了

16時25分~16時30分 体育館の清掃、練習準備

16時30分~18時30分 全体練習。フットワーク、ラントレーニング、オールコート1対1、ディフェンス練習数種、セットプレーの確認、5対5、クールダウン

18時30分~19時 自主練習

19時 下校

【大会直前の過ごし方】走力に特化したメニューに注力

大会2週間前から3日前は、チームのアイデンティティーの一つである「走力」に特化したメニューを増やして、走る意識を体に染み込ませる。

「制限時間内にオールコートを8往復する『セブンティーン』など、単純に走るだけのメニューも取り入れますが、試合の中で走る力を養うために実戦的なメニューにも取り組みます」(池田監督)

試合の状況に応じて速攻とフォーメーションプレーを臨機応変に使い分け、得点を重ねる

2日前からはケガをしないことを最優先。対人練習をできるだけ少なくし、セットオフェンスの確認などにあてる。

関東予選、関東大会のメンバーは、実力や部活に取り組む姿勢などを総合的に判断しながら池田監督が決定。インターハイ予選は大内主将、磯野副主将の意見も取り入れながら15人のメンバーを決定する。

<年間スケジュール>

5月 県総体

6月 関東大会、インターハイ県予選


8月 合宿、国民スポーツ大会関東予選

9月 県U18リーグ戦


10月 国民スポーツ大会、ウインターカップ県予選

1月 県新人大会、合宿

2月 関東新人大会

3月 県強化大会、交歓大会、合宿

【上達のコツ】コミュニケーションを綿密に

伝統であり、最大の武器は「コミュニケーション力」だ。「何ができていて何ができてないのかをちゃんと考えて、話し合って、次に生かせるのはうちのチームならではだと思います」と大内主将は言う。

チームは取材前日にミーティングを行っていた。連覇を目指したものの3位に転落した県総体後、初めてのチーム練習だった。

なぜ結果が出なかったのか。それぞれが思っていることを知り、チームとして見つめる先を共有するために、池田監督も含めて腹を割って話した結果、ライバル校の気持ちの強さと自分たちの弱さ、詰めの甘さが浮き彫りになった。

ケガで練習に参加できない上級生が新入生にセットプレーを説明。それぞれがやれることをやれるのも強みだ

取材日は季節外れの夏日となった。練習終盤、慣れない暑さに集中力がゆるみ、言葉が出なくなる時間帯が増えた。全体練習後、大内主将は部員たちを集めて言った。

「昨日のミーティングで『チャレンジャーとしてやろう』『細かいところを突き詰めよう』と話したけど、まだ足りていない。チャレンジャーとしての気持ちをどうすれば持てるのか、話し合おう」

少しでも練習の間があくと、あちこちで話し合いが始まる。先輩たちから受け継いできた宇都宮北の伝統だ

部員たちは数人のグループに分かれて短いミーティングを実施。「上級生だけでなく全員が積極的に声を出す」「声が出ていない状況を作らない」「勝ちたいという気持ちを持ち続ける」など、さまざまな意見が出ていた。

宇都宮北高校男子バスケットボール部

宇都宮北高校男子バスケットボール部

部員28人(3年12人、2年9人、1年4人、マネージャー3人)。1月の栃木県新人大会で県内2強の宇都宮工業、文星芸術大学附属を破って初優勝を達成。開学以来「主体的で対話的な学習」を掲げる同部の伝統にのっとり、部活と学業の両立にも力を入れている。6月のインターハイ予選準決勝は優勝校に敗れたものの、5月の県総体で27点差で敗れた相手に1点差と意地を見せた。