日本屈指の女子バスケの名門・桜花学園(愛知)は今年度、黒川心音と田中こころ(ともに3年)が主将に就任した。主将2人制は創部68年で初。インターハイ、ウインターカップともに3回戦敗退に終わった昨年の悔しさをバネに、2人のリーダーが巻き返しを誓う。(文・写真 青木美帆)

泣き崩れたウインターカップ

昨年の12月25日、桜花学園は優勝を目指したウインターカップを3回戦敗退で終えた。下級生ながらスタメンで試合に出場し、チームトップの27得点を挙げた田中は、試合後、涙を見せることなく気丈に報道陣の取材に応じた。しかし、宿泊していたホテルに戻ると、張り詰めた糸がぷつりと切れた。「号泣とかのレベルじゃなくて、崩れ落ちながら泣きました」(田中)

抜群のシュート力を生かしエースとして活躍する田中こころ

確かに点は取った。しかし、試合終了まで残り3.3秒、自身のマークマンに同点の3ポイントシュートを沈められ、続くフリースローで逆転された。「負けたのは自分のせいだと思っている」と報道陣にきっぱりと言った。

床に座り込み、激しく泣きじゃくる田中に、黒川が歩み寄って言った。「自分がチームを見るから、ルナ(田中の愛称)はゲームを引っ張って。がんばろう」。田中はいっそう激しく泣いた。

支え合う二人の主将

新チームのキャプテンを2人にするというアイデアは、誰ともなく、ごく自然に生まれたものだったという。「去年のキャプテンが大変そうだったから、今年は分担したほうがいいと思っていました」と田中。黒川も、エースとして大きな責任を担う田中が、試合以外の場所でも負担を背負い込むのはよくないと考えていた。

他のメンバーも多かれ少なかれ、似たような思いを抱いていたようだ。新チームがスタートするタイミングで行ったミーティングで、桜花学園バスケ部初となる黒川・田中のダブルキャプテンはすんなりと受け入れられた。同じキャプテンではあるが、役割は違う。田中は試合でリーダーシップを担う「ゲームキャプテン」。黒川は練習や寮生活からチームの土台を作り上げる「チームキャプテン」だ。

チームキャプテン、司令塔としてチームを引っ張る黒川心音

取材に訪れた日は、テスト期間中ということで約1時間の短い練習だった。「テスト勉強で寝不足の人が多いから、どれだけ集中していい練習ができるかを意識していた」と話す黒川は、仲間たちを俯瞰(ふかん)できる位置に立って練習の様子を見守り、時折、短く的確な言葉を発して部員たちの雰囲気を引き締めた。

「誰よりもアンテナを張っていて、コーチ陣も気づかないようなことを真っ先に指摘したりする。すごいなと思います」。田中はこのように黒川のリーダーシップをたたえ、「黒川がチームのことをほとんどやってくれるんで、プレーにより集中できるようになりました」と言う。

一方の田中は、黒川いわく「ぼーっとしていて何を考えているかわからない」キャラクターだが、試合に入ると一変するそう。「日常生活ではボケーっとしている」と笑う黒川も「プレーで引っ張ってくれるし、雰囲気が悪いときはどんどんまわりに声をかけてくれる。安心してついていける存在です」と、試合中の田中への全幅の信頼を表している。

部員みんなで意見を言い合う

昨年度の桜花学園は、インターハイとウインターカップ、2つの全国大会でともに3回戦敗退に終わった。常に日本一を目指すチームにとっては屈辱的な成績を受け、部員たちは自分たちに足りなかったものを話し合い、変えなければいけないものを明確にした。

2人のリーダーが特に注目したのが、チーム全体のコミュニケーションを活性化させることだ。部員全員が寮生活を送る桜花学園は、代々ミーティングを大切にしているが、今年度は特に、学年を問わず意見を言い合うことを意識しているという。

息の合ったプレーを見せる黒川(写真左)と田中

ミーティングを実施するのは毎日夕食後。練習後に黒川と田中とで練習での課題をすりあわせ、それを主なテーマに意見を交換する。所要時間は試合の映像を見るときでも20分程度と短め。「みんな他にやることがあるので、課題を全員で共有して、次の練習に向けて意思統一ができたら終わりにします」と黒川は説明する。

短い時間の中でも、なるべく多くの部員に発言をうながすようにしている。「全員がしゃべれるようにならないと本当のミーティングとは言えないので」と黒川。新チームが始まった当初は黒川と田中ばかりが発言していたが、今は他の3年生や下級生たちも自分の考えを言えるようになってきたという。

このような変化は、プレーにもいい影響を及ぼしつつある。黒川は「コートの中でもコミュニケーションが増えたかな。『ここはどうすればいいですか?』と聞いてくれる下級生も増えました」と話し、田中も「実戦の中で下級生から『もっとこうしたい』と意見が出るようになったし、練習中も全員がいいことも悪いことも言い合って、思い切りよくプレーできるようになったと思います」と続ける。

夏も冬も「絶対に日本一」

年度最後の大会かつ出場チームが最も多いウインターカップは、高校バスケ界最高峰の大会と位置付けられている。全国の強豪の中には、年度最初の全国大会のインターハイをウインターカップに至るまでの過程ととらえるチームもあるが、桜花学園は違う。「ウインターカップに合わせず、まずインターハイで優勝することを目指している」と黒川。田中も「インターハイもウインターカップも絶対に日本一をとるもの」と力を込める。

ポイントガードの黒川とシューティングガードの田中。ゲームを作るガードコンビとしての活躍にも注目だ

昨年は優勝した京都精華学園(京都)に63-65で敗れた。ウインターカップも接戦をものにできなかった。同じ轍(てつ)はもう踏みたくない。黒川は「優勝するためにはチーム力が絶対に大事。チーム力を高めるために毎日みんなでしゃべって、一日一日成長して、いい準備をしてインターハイを迎えたいです」と抱負を語った。

くろかわ・ここね 2005年9月28日、長崎県生まれ。三重・四日市メリノール学院中卒。16歳以下日本代表として「FIBA U16女子アジア選手権」に出場。164㌢、53㌔。ポジションはポイントガード。息抜きは温泉に行くこととラーメンを食べること。
たなか・こころ 2006年1月10日、大阪府生まれ。堺市立浜寺中卒。16歳以下日本代表として「FIBA U16女子アジア選手権」に出場。172㌢、60㌔。ポジションはシューティングガード。母が作る春巻きが大好物で、Official髭男dismのファン。
桜花学園バスケットボール部 部員25人(3年生7人、2年生10人、1年生8人)。昨年新設された「U18日清食品トップリーグ」で初優勝。モットーは「爽やかに、たくましく、そして華麗に」。髙田真希、馬瓜ステファニーら卒業生5人が2023年度の日本代表に名を連ねている。