新型コロナウイルスの感染拡大防止のための休校が続いたことで、授業の遅れや生活リズムの乱れなどに不安を感じている人も多いのではないでしょうか。医師として受験生のメンタルケアに取り組む吉田たかよし先生に、高校生から寄せられた悩みへのアドバイスを聞きました
お悩み:休校期間中に勉強が進まず、今焦る気持ちが消えない。前向きになるにはどうすれば?
新型コロナウイルスで長い休校期間がありました。ですが振り返ると受験勉強が思うように進みませんでした。いま、焦る気持ちで頭がいっぱいになっていて、後悔しています。それが原因で、さらに勉強が進まない悪循環にはまってしまっていて落ち込んでいます……。どうすれば前向きに取り組めるようになるでしょうか。
それは脳の正常な反応
「休校期間に受験勉強が思うように進まなかった」というのは、私のクリニックでもほぼ全ての受験生が訴えていることです。実際の勉強の進み具合にはほとんど差はついていないと考えてよいでしょう。
このような感じ方をするのは「選択的記憶再生」の仕組みによるものです。人間の脳はストレスや焦りを感じると、悪いことばかりを思い出す傾向があります。実際には良いこともあったはずなので、「休校中に何もできなかった」と感じたとしても、多少は実行できたことがあるのではないでしょうか。
勉強以外の楽しいことに取り組めた人もいるかもしれません。「ゲームしかしていなかった」という人も「ゲームという楽しいことができた」と考えれば、決して「何もできなかった」わけではないはずです。
新型コロナウイルスの感染が広がることで、社会全体の不安が強まると、選択的記憶再生の仕組みが強く働くようになります。親や周囲の人の不安を感じ取って、ますます不安になるのが特徴です。感染症の流行時に人々の不安が強くなり、抑うつの症状が出ることで行動を制限するようになれば、感染症が拡大しにくくなるという一面もあり、これは理に叶ったことなのです。人間なら誰しもこんなふうになることがあるんだ、人間として正常な反応が起きているんだと考えると、気持ちが楽になるのではないでしょうか。
寝る前に良かった出来事を3つメモしてみて
悪いことばかりを思い出してしまうときは、良いことを考える練習をすることをおすすめします。これは認知行動療法でも有効とされている方法ですが、夜寝る前にその日に体験した良いことを3つ、ノートに箇条書きしてみましょう。
「クラスメートが消しゴムを拾ってくれてうれしかった」「友達が笑顔で挨拶を返してくれた」というような、小さな出来事でかまいません。3つ書き出してからポジティブな気持ちで眠りにつくと、脳が「良いこともある」と認識して、眠っている間に見る夢の内容も変わり、落ち込みがちな気持ちの改善につながります。
5年後、10年後、これから皆さんが生きていくなかでは、自分に非はなくともさまざまなピンチに直面することもあるかもしれません。そんなとき、高校生のときにコロナ禍というピンチを経験したということは、大きな財産になっているはずです。不安を感じたり、悩んだりしながら今を乗り越えていく経験そのものが、将来のあなたの役に立つのだということも、ぜひ知っておいてもらえればと思います。
吉田たかよし先生
よしだ・たかよし 医学博士・心療内科医師。「本郷赤門前クリニック」院長として、脳科学と学習医学を活用して受験生の心身をサポート。学習塾「浜学園」のホームページで、勉強法や合格を勝ち取るための食事のレシピなどの動画を公開中。
https://www.doctor-yoshida.net/