「ルールに従わなくちゃ」差別されることから目を背ける他大女子たち

ではインカレサークルのメンバーである他大女子はどう思っているのでしょうか。男子より劣った地位に置かれることに対し、女子もまた無関心層と違和感を覚えつつも押さえ込んでいる層が大半でした。

彼女たちは「先輩女子がやっているから」という年功序列の論理にすり替えたり、「いつか社会に出たら役に立つ」という倒錯した論理を駆使したりすることで、男子優位のジェンダー秩序を受け入れていました。

「結局集団入ったらルールに従わなくちゃですから」と語った女子がいたように、彼女たちは自分達が所属するインカレテニサーにおけるジェンダー秩序のおかしさを決して差別とは認めません。認めてしまえば異分子となり、集団での居場所を失うからです。集団の一員となるために差別に対し意識的に目を背け、それでも湧き上がる違和感を様々な理由で正統化する女子の葛藤が読み取れました。

東京大学の赤門

このように、東大インカレサークルには男子優位のジェンダー秩序が存在します。上に立つ側の男子は女子の不満に気付こうとはせず、無関心を貫いて伝統を踏襲しています。一方で女子もまた様々な理由付けをして違和感や葛藤を抑え込み、このいびつなジェンダー秩序を受け入れています。またこの内部の人々の意識に加え、「東大女子お断り」という外部構造もまた歪なジェンダー秩序の維持に貢献していると言えます。

他大女子にとって「東大女子お断り」は恋愛機会確保につながる

「東大女子お断り」は東大学生支援課が「性別などで東大生の加入を制限する」ものとして問題視した通り、男女差別的な慣習と言えます。しかしこれを差別として捉えたのは被差別者である東大女子のみで、東大男子は学内サークルに所属していようがインカレサークルに所属していようが明確に問題視せず、「東大女子お断り」という伝統を慣習的に受け継いでいました。またインカレサークルに所属する東大男子からは、「倫理的におかしいとはいえ東大男子と他大女子でサークルを運営した方がやりやすい」という声も聞かれました。

一方、他大女子の中には東大女子を恋愛面のライバルとして不安視している人もいました。他大女子は「頭の良さ」と「女性であること」は両立しないものと捉えており、“頭の良い女性”という矛盾したジェンダー像を否定することで「東大女子お断り」を半ば積極的に受容していました。「(東大女子は)頭が良いから関わりづらそう」といった言葉が複数の他大女子から聞かれました。

「東大女子お断り」は東大男子にとっては男子優位のジェンダー秩序を維持するため、他大女子にとっては“頭の良い女性”という矛盾した存在から距離を取って東大男子との恋愛機会を確保するための戦略の一つと考えられます。

仲良く活動できたはずの東大女子と他大女子が距離をとる悲しさ

また、東大女子に対するインタビューも行いました。東大女子にとって東大男子と他大女子で構成されるインカレサークルへの印象は悪く、「出会い系」「お断りってしてくるサークルに私たちは入りたくない」という言葉が複数見られました。また他大女子と「話が合わない」ことを危惧する東大女子もいました。本来なら同じサークルに入って仲良く活動できたはずの東大女子と他大女子が、互いに悪いイメージを抱いて距離を取るのは悲しいことだと言えます。

東大インカレサークルにおける二重のジェンダー差別構造は、ジェンダー意識の低さに伴う罪悪感の無さ、偏差値ヒエラルキーに基づく男子の傲慢さと他大女子の低姿勢(「(東大生は)頭いい」「うちらはバカ」)、インカレサークルに対する東大女子の嫌悪感など、様々な要素が絡み合って成立しています。インカレテニサーに所属する当人達は慣習的に伝統を踏襲しているに過ぎず、差別に加担しているという認識が薄いままです。男子より劣位に置かれている他大女子ですら「東大女子お断り」を半ば積極的に受け入れ、この男子優位のジェンダー秩序の維持に間接的に貢献してしまっています。伝統という隠れ蓑の下で悪意無く行われる差別をなくすことは非常に困難であると言えるでしょう。