「ちやほや文化」と「バカいじり文化」で女子を過度に「女の子扱い」

また、「男子に守られるべき存在かつ男子より知能で劣った存在」という「女性性」を男子が必要以上に持ち上げる「ジェンダー非対称」な慣習も複数のインカレテニサーで観察されました。具体的には、「ちやほや文化」と「バカいじり文化」の2つが挙げられます。

「ちやほや文化」とは“可愛い”“お姫様”といった言葉を使うことにより、男子が女子を必要以上に女の子扱いする風潮を指します。「バカいじり文化」は、漢字や時事問題が分からない女子に対し、男子が「バカだなあ」といじる風潮です。ここでは“女性らしい可愛らしさ”や“男性より知能で劣ること”といった、男子にとって都合の良い女性性が大きく持ち上げられていることが分かります。

東京大学の安田講堂

また一方で、これらの男子優位のジェンダー秩序はインカレテニサーのみで見られ、インカレバドミントンサークルではむしろ他大女子が東大男子より権力を握るといった構造が見られました。このいびつなジェンダー秩序がテニサー独特のものなのか、それともバドサーが特殊なのか、さらなる調査が必要だと言えます。

「伝統だから仕方がない」おかしいと思っても変えようとしない男子たち

日本で大きな影響力を持つと考えられる東京大学において、悪気がないとは言え明らかな男女差別が、同年代の若者によって行われていることは非常に衝撃的でした。この「男子優位のジェンダー秩序」が維持されている仕組みはどのようなものなのでしょうか。

結論を先取りするならば、東大インカレサークルには二重の差別構造があると言えます。これまで述べてきたような、サークル内部の「男子優位のジェンダー秩序」、そして、それを維持するための「東大女子お断り」という外部構造です。これら2つの構造が互いに補強し合っているがゆえに、この差別構造をなくすことは非常に難しいと言えます。

インカレテニサー内部の男子優位のジェンダー秩序が維持される仕組みとして、まずテニサー内部の人々の意識が挙げられます。インカレテニサー所属の東大男子にインタビューすると、男性優位の秩序に対して無関心でいるか、問題視しつつも無くそうとする行動をしない人が大半で、学歴差や伝統を理由に男子の優位性を正統化していました。

学歴差とは、男子の方が学歴が高く仕事ができるため、男子が運営の中心を担う方が効率が良いという考え方です。しかし筆者としては、それより伝統に縛られている男子が多いという印象を受けました。男子優位のジェンダー秩序が少しおかしいと気付いていても、「代々続いてきた伝統だから仕方が無い」と考えてしまう姿勢です。「伝統を変えることによるリスクを負うのが嫌だ」という意見も聞かれました。

男子優位の秩序があれば、男子には、東大女子より華やかで従順な他大女子のサポートを受けながらサークルの実権を握ることができるというメリットもあります。東大女子より他大女子の方が外見上華やかで「優しい」と答えた東大男子は多くいました。長年続く男子優位の伝統がある上に、東大男子にとって多くのメリットがあれば、なかなか変革には踏み出せないというのが実情のようです。