近畿大学付属(大阪)はウォーミングアップ用のウエアを介して、インターハイの会場にいる人間に一つのメッセージを投げかけた。
「I love Basketball,but Basketball is just a chapter in life.」
バスケットボールは大好きだ。でもバスケットボールは人生の一部分でしかない、と。
近大付は、部活改革ともいえる様々な試みを行っているチームだ。日曜日は完全休養。都合に応じて各自が自由にとれる「年休」という制度を設けている。
大森健史コーチはその理由について説明する。
「バスケットをプレーするのは1日せいぜい3時間程度。残りの21時間を無為に過ごしていたら、バスケットがなくなったときに何もできない人間になってしまう。そこを充実させて、人間としての器を広くさせてあげたいんです」
キャプテンの野崎海斗(3年)は、大阪府ベスト8の強豪中学出身。中学時代、頭の中はバスケットと受験勉強のことばかりだった。近大付に入学当初はこのようなやり方に面食らったが「(バスケット以外のことを)自分でやるしかない」と腹をくくり、少しずつアンテナを張ってきた。昨年冬には高校生向けのグローバル人材育成プログラムに参加し、カンボジアに滞在。9月からはまた新しいプロジェクトに参加する予定だ。
ひときわ大きな声とジェスチャーでチームを盛り上げた三浦大翼ラファエル(2年)は、パントマイムの愛好者。中学時代は部活が忙しく、泣く泣く教室をやめたが、高校入学後は休日と年休制度をうまく活用しながら、両立に励んでいる。
「僕は趣味が多くていろんなことをやりたい人間。バスケだけしかできないのは嫌だったので、こういう環境はとてもありがたいです」(三浦)
今大会は、8月2日にあった1回戦で東海大学付属諏訪(長野)と対戦。ハイレベルな北信越大会で準優勝した強豪相手に第4クォーター終盤まで競り合ったが、惜しくも68-74で敗れた。野﨑は「最後は集中力が切れて相手のペースになってしまった」と悔しげだったが、地力に勝る相手と互角に戦えたのは、日ごろから磨いてきた集中力の賜物。大森コーチも「ここまで戦えるとは思っていなかった」と選手たちのがんばりをたたえる。
バスケットボールに高校生活のすべてを捧げることは、ない。近大付のバスケット部員にとって、バスケットはあくまで生活の一部だからだ。しかし、その一部を心から大切にしているからこそ彼らは大阪府の頂点に立ち、全国大会を戦った。それは紛れもない事実だ。
野崎は9月から始まるウインターカップ府予選を「大阪1位で突っ走って、ぶっちぎりで勝つ」と言い切る。ウインターカップのメーンコートに立つという夢を実現するため、彼らの挑戦は続く。(文・写真 青木美帆)