俳優の市原隼人さんに高校生記者がインタビュー。市原さんが実践する、プレッシャーとの上手な向き合い方やチャンスを逃さない方法を、熱い言葉とともに語ってもらいました。(聞き手・大熊美尋、五十嵐由=高校生記者、構成・中田宗孝、写真・幡原裕治)
学校の授業は「ぜいたくな時間」
—高校時代も俳優として活躍していました。高校生に戻れるなら、やってみたいことはありますか?
高校生に戻れたら、僕はあらためて勉強し直したいです。10代のとき、台本に書かれていた「逡巡(しゅんじゅん)」の意味が分からなかったり、「屍(しかばね)」の漢字が読めなかったりした経験があります。今思い返せば、学校の授業はとてもぜいたくな時間だったんだと思うんです。大人になったら、求めなければ誰も教えてくれませんから。

仕事で学校に行けない時期もあったので、文化祭にも行けなかったんです。友達とたくさん高校生らしい遊びをしたいです。
「価値観が違う」っておもしろい
―高校時代だからこそ経験できることって、たくさんありますね。
特に僕がいいなと思うのは、学校にはいろいろなタイプの生徒が集まってくるところ。クラスにいる「合わない人」「自分とはまったく異なる考えを持っている人」と一緒に過ごすのは、今思えばとても楽しいことだと。「こういう人もいるんだ、おもしろいな」と感じられるのが大事だと思います。
―「自分と合わない」と、ついつい避けてしまいそうです。
正義は、人それぞれ違います。相手の立場に立ち、相手の正義も認められるような価値観を養えば、将来の役に立つと思います。
例えば、海外に行ったら、日本とはまるで違う秩序やルールに直面します。会社に入れば、上司によって正解とされる行動も変わるんです。今のうちに、いろいろな人の価値観に触れて、自分の中でかみ砕く。「自分の物差し」を確立して、周りを見る力をつけてみてください。

365日「常に人生の分岐点」
—高校卒業後、進学せず役者の道を選択したことに迷いはありませんでしたか?
役者を続ける、続けないに限らず、10代のころは人生への不安が大きかったです。どう生きていいのか分からない。将来が見えない不安しかなかったです。
僕がどうしたかというと、ただひたすら目の前のことに必死に向き合いました。不安に打ち勝つにはそれしかないと思いました。
そして、目の前に訪れたチャンスは逃すまいと強く意識していました。今でも「365日24時間、常に人生の分岐点である」と、考えるようにしています。人生は「あの時挑戦していれば」「あの時イエスと言っていれば」「あの時拒まなければ」……そういうことだらけです。
どこでチャンスに巡り合うかわからないので、常にアンテナを張っています。不意にくるチャンスをつかみ取れるように。大人になると、仕事も人生も自分で選ばなければいけない。「自分からつかみに行く勇気」が必要だと思います。
給食シーンは「ほぼアドリブ」
—主演を務める映画「おいしい給食 炎の修学旅行」の見どころの一つは、市原さん演じる中学教師・甘利田先生が給食を食べる、コミカルなシーンです。
どんな動きして給食を食べるのかは台本に書かれていません。給食をどう口にするか、食べながらどう動くかといった甘利田先生の動きは、ほぼ自分が考えたアドリブ演技。Aパターン、Bパターン、Cパターンと、複数の動きを考えてシミュレーションを重ねていくんです。そのため給食シーンの撮影前日は、ほとんど寝られないです(笑)

誰かの代わりって寂しい
—面白くて笑える給食シーンは、市原さんにとってはハードな撮影現場なのですね。
1シーンをどれだけ考えられるのか、追求できるのかは役者として大事だと感じています。役者は、お客様や作品制作スタッフなど、人に求めていただくことで成り立つ職業。「自分の代わりがいない」ことを僕はいつも目指しています。誰かに代わられてしまう人生は寂しいじゃないですか。
自分にしかできないものを、どれだけ追求できるか。誰もやっていないようなこともやってみよう。今作の甘利田役もそうですが、自分にしかできない芝居を探さないといけないんです。
努力に裏切られたっていい
―頑張ってみて成果が出なかったら……と怖くなることはありませんか?
「努力」に裏切られても上等! 一生懸命やってみた結果、形にならなくてもいいと思っています。努力するプロセスや姿勢が、一番大切だと思います。
オリンピック選手でも、一流の料理人も、最初はだれでも失敗して当たり前で、できなかったことだらけなんです。ただ、そこで諦めず、強い信念や目標をもって、毎回繰り返し続けられるかです。僕は続けられたから、役者でいられたと思っています。
―どうやって頑張ればよいのか、迷いそうです。
最初は、「こんな良い映画を作りたい!」と思っても、何をどう頑張ればいいか分からないものです。大事なのは「根源」をつかむこと。映画というエンターテインメントは、何を求められ、誰に何を伝えるべきなのか。根源を理解すると、頑張るポイントがわかり、アイデアは無限に出てくるんです。
【取材後記】衝突避ける自分に気づいた

「相手の立場になって、認めるのが大事」という言葉が印象に残っています。きっと小学校でも教わっていることですが、誰かとの衝突を避けて、嫌われないように生きているうちに、私は忘れてしまいました。気づきを大切にして、これからの人間関係について考えていこうと思います。(高校生記者・大熊美尋=2年)
【取材後記】つかむ勇気を持とうと思った
人生の選択に迷い、未来が見えないと感じた時期もあったと明かしてくださり、「何が正しいか分からないからこそ、目の前のチャンスを逃さないように、常にアンテナを張る」と話していました。最近私は進路について悩み、周囲と比べて劣等感を抱く時も多いです。市原さんの言葉に触れ、自分からつかみにいく勇気がなければ大人にはなれないと改めて感じました!(高校生記者・五十嵐由=2年)
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いちはら・はやと
1987年2月6日生まれ。神奈川県出身。2001年、主演に抜てきされた映画「リリイ・シュシュのすべて」で俳優デビュー。主な出演作は、ドラマ「ROOKIES」、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、「べらぼう」「おいしい給食」シリーズなど。
市原隼人さんのサイン色紙をプレゼント!
市原隼人さんサイン色紙を1人にプレゼントします。高校生新聞編集部LINE公式アカウントとお友達になってから、「市原隼人さん色紙希望」と明記の上、「学校名・学年・記事の感想」をメッセージに書いて送ってね。応募資格は高校生・中学生に限ります。11月30日締め切り。当選者には編集部からメッセージでお知らせします。
映画「おいしい給食 炎の修学旅行」

1990年、函館の中学校で教壇に立つ甘利田幸男(市原隼人)は、給食をこよなく愛する教師だ。今日も、彼の受け持つクラスの生徒・粒来ケン(田澤泰粋)との給食のバトルを繰り広げていた。ある日、甘利田のクラスは青森・岩手への修学旅行に出発。旅先のご当地グルメに心躍らせる甘利田だったが……。配給:AMGエンタテインメント。10月24日(⾦)から全国公開。
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