俳優の市原隼人さんに高校生記者がインタビュー。「高校時代は仕事も大人も嫌いだった」という驚きの過去を告白。俳優業に消極的だったかつての自分を変えるきっかけとなったエピソードも明かしてくれた。(聞き手・大熊美尋、五十嵐由=高校生記者、構成・中田宗孝、写真・幡原裕治)

仕事も大人も大嫌いだった

—市原さんは高校時代も芸能活動をしていましたが、当時仕事の悩みはありましたか。

あのころは、仕事が大嫌いでした。「なんで仕事しなきゃいけないんだろう?」と常に思う毎日だったんです。芸能活動の中で関わる大人たちも嫌いでした。

何か決定的な出来事があったわけじゃありません。若さゆえの「理由なき反抗」といいますか……自分の周りに信じられる人が少なかったんです。

市原隼人さん(ヘアメーク:大森裕行(VANITÉS)、スタイリスト:小野和美)

「笑顔になれる」ファンの声で奮起

—そのような心境からどんな転機が訪れたのですか。

仕事をする理由を、僕を応援してくださる方々が教えてくださったんです。「余命宣告を受けたけれど、病室で市原さんの作品を見ると笑顔になれる」「目の手術が怖い。もう見えなくなると思うんです。けれど、術前に市原さんの出演作を見ます。最後の視聴になると思います」というメッセージをいただきました。……涙が止まらなくなってしまって。

「芝居で、誰かの希望になれるのでは」と思えた。僕はそのために役者という職業をしていくんだ。そう強く信じられたんです。

市原隼人さん(ヘアメーク:大森裕行(VANITÉS)、スタイリスト:小野和美)

プレッシャーで涙、寝られず…

—高校生のころ、仕事へのプレッシャーはありましたか?

僕はプレッシャーに弱い人間でした。役者をする上で、自分の代わりがいないから体調を崩せない。風邪もひいちゃいけない。もともと人前に出るのも苦手だったので、重圧で吐いてしまったり、部屋の隅っこで膝を抱えて泣いていたり。寝られない時期もありました。

―つらいですね……。どう乗り越えましたか?

「心技一体」という言葉を自分の支えにしたんです。心と体の両方がともなうことで、技をしっかり出せる。心と体のどちらか一方だけが充実していても、最高のパフォーマンスは生まれないと思っています。

朝4時起きでトレーニング

—なにか行動を変えたんですか?

体を鍛え始めました。器械体操、水泳、空手など、2歳からスポーツをやっていたので運動は元々好きでした。激しいトレーニングに励み、肉体的に自分を追い込むと、メンタル面も鍛えられる。

マイナスの感情やプレッシャーを乗り越え、壁を越えてやろうという気持ちが芽生えていくんです。僕にとってトレーニングは欠かせない日常になりました。今週は週5日、今日も朝4時に起きてトレーニングしてからきました。

―朝4時! 朝は得意なんですか?

いえ、朝は弱い方です(笑)。人が休んでいる時にちょっとづつでも努力して、それを毎日を繰り返せば、誰にも負けない自信や向上心や強靭な精神力を持てると思っています。それは、父がとても厳しい人で、「人が寝ている間に10倍努力すればお前は秀でられる。簡単じゃないか」って言われてきた影響かもしれません。

教師役演じ6年「幸せです」

—映画「おいしい給食 炎の修学旅行」で演じる中学教師の甘利田幸男は、市原さんが同作ドラマ版のシリーズから長く演じているキャラクターですね。

はい。甘利田幸男を6年演じさせてもらっています。この役には、役者としての「根源」を教えてもらっている気がしています。役者は、作品を見ていただけるお客様に寄り添う存在であるべき。甘利田をずっと好きでいてくださるお客様がいるからこそ、僕はこの役を演じられている。

エンターテインメント業界は、夢とビジネスが混とんとする世界です。でも僕は何としても夢を目指したい。100%お客様のために、家族のようなチームみんなで話し合いながら作った「おいしい給食」という作品に携われて、僕は幸せです。ただ、体力がいる役柄なので、想像以上に肉体面はだいぶ酷使してます(苦笑)。

(C)2025「おいしい給食」製作委員会

何を演技で届けたいか?

—中学校が舞台の今作。生徒役の若手役者の方々とはどのように接していますか。

撮影現場で彼らに伝えたことがあります。「『作品づくりに携わる意義』や『お客様に届けたいことは何か』を考え続けながら芝居に臨んでください」と。

10代の若い役者のみなさんも、普段の私生活で映画や音楽といったエンターテイメントから楽しさや勇気をもらってきたはず。本来は仕事をしなくてもいい年齢の彼らが、役者の仕事をすると決めたのであれば、今度は誰かに何かを提供する立場になる。その心構えは持ってほしいと思いました。

【取材後記】積み重ねを大事にする姿勢

市原隼人さんと高校生記者

印象的だったのは「心技一体」という言葉です。少しずつでも今日より明日へ自分を超えるために、人が休んでいる時こそ努力する。真剣なまなざしからは、積み重ねを大切にする姿勢がにじみ出ていたように感じました。(高校生記者・五十嵐由=2年)

【取材後記】心を強くするヒントもらえた

朝の4時に起床してトレーニングを続けるストイックさには驚きました。特に、「体が強くなれば心も強くなる」という言葉がとても印象的でした。私は小さなことでも気に病んでしまいがちで、心が落ちてしまう瞬間が多いのですが、この言葉が「もっと頑張ろう」と思えるきっかけになりました。(高校生記者・大熊美尋=2年)

いちはら・はやと

1987年2月6日生まれ。神奈川県出身。2001年、主演に抜てきされた映画「リリイ・シュシュのすべて」で俳優デビュー。主な出演作は、ドラマ「ROOKIES」、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、「べらぼう」「おいしい給食」シリーズなど。

市原隼人さんのサイン色紙をプレゼント!

市原隼人さんサイン色紙を1人にプレゼントします。高校生新聞編集部LINE公式アカウントとお友達になってから、「市原隼人さん色紙希望」と明記の上、「学校名・学年・記事の感想」をメッセージに書いて送ってね。応募資格は高校生・中学生に限ります。11月30日締め切り。当選者には編集部からメッセージでお知らせします。

映画「おいしい給食 炎の修学旅行」

(C)2025「おいしい給食」製作委員会

1990年、函館の中学校で教壇に立つ甘利田幸男(市原隼人)は、給食をこよなく愛する教師だ。今日も、彼の受け持つクラスの生徒・粒来ケン(田澤泰粋)との給食のバトルを繰り広げていた。ある日、甘利田のクラスは青森・岩手への修学旅行に出発。旅先のご当地グルメに心躍らせる甘利田だったが……。配給:AMGエンタテインメント。10月24日(⾦)から全国公開。(C)2025「おいしい給食」製作委員会