ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」など数々のヒット作を手掛ける人気脚本家・野木亜紀子さんにインタビュー。映画監督を志しながらも道半ばで挫折し、35歳で脚本家になった野木さんは、これまでの進路選びやキャリアを「消去法」で決めてきたといいます。夢が見つからず悩む高校生へ、力強いエールを届けます。(取材・櫻田結衣、赤羽柚香=高校生記者、構成・中田宗孝)

「映画監督になりたい」進路は「消去法」で決めた

―高校卒業後は、映画の専門学校に進学していますね。

映画が好きだったので、「作る側である映画監督になりたい」と思い、専門学校の「日本映画学校」(現・日本映画大学)に決めました。アルバイト先のレンタルビデオ店の先輩から「映画を作るの楽しそうじゃない?」と勧められたのも、きっかけの一つになりましたね。

野木亜紀子さん

―映画の道一筋で、進路選びは迷いなく決断したのでしょうか。

実は違うんですよ。映画(映像)だけでなく、写真、デザイン系の専門学校……と三つの進路を考えていました。父親のお下がりの一眼レフカメラで人物写真を撮るのが趣味でしたし、絵を描くのが得意で美術の成績も良かったから、デザインの分野に進むのもありだなと。

―どう結論を出したのでしょうか?

「消去法」で決めたんです。進路先の候補だった写真やデザインの学園祭を見に行ったりして、何がいいかなと考えたとき、映像のほうが、より表現の幅があるように当時は映りました。もちろん今は、写真やデザインも多彩な表現ができる分野だと思っています。

脚本家は「唯一できそう」な仕事だった

―脚本家をなぜ志したのですか。

脚本家になったのも「消去法」と言えます。

映画監督を目指して専門学校に入って、卒業後は映像制作会社に就職。フリーの時期も含めて8年ほど映像制作に携わる中で、演出家やディレクターなどの「現場に立つ」仕事が、性格的にも能力的にも向いてないと痛感させられました。つまり映画監督も無理だなと。

けれど、映像の仕事には関わっていたい。唯一、できそうだと思えたのが脚本家だったんです。憧れではなく、消去法で脚本家にたどり着きました。

「想像以上のシーン」になる瞬間が楽しい

―脚本家の魅力は何でしょうか。

自分が書いた脚本以上に素晴らしいシーンに仕上がっていた瞬間を見るのが、すごく楽しいんですよね。役者の方々のお芝居、監督の巧みな演出、映像を作り出す撮影、流れる音楽など、すべての相乗効果で、私が想像すらしなかった、すごいシーンになる場合がある。この体験ができるのが、脚本家の大きな魅力ですね。

「夢が見つからない」のは当たり前

―高校生に進路選びのアドバイスをいただけますか。

「高校生のうちに将来の夢が見つからない」のは普通です。それが当たり前だと思う。みなさんはこれから年齢を重ねて、多くの失敗や挫折を経験しながら自分の得手不得手を見つけていきます。

経験を重ねる中で「これならできそう」「この仕事はやれるかも?」と次第に分かってくるんです。そのときにやりたいものを見つければいい。私が脚本家になったのは35歳のとき。どう生きればいいのか散々迷ったし、30歳越えてからの人生も長いんですよ(笑)

「楽しく気持ちよく歌ってほしい」

―野木さんは、今年の「第92回NHK全国学校音楽コンクール(Nコン2025)」高等学校の部の課題曲「惑星そぞろ」の作詞を手掛けました。完成した楽曲を聞いた印象は?

アンサンブルが美しい、キラキラした曲だと思いました。「ブルーグリーンの星を見たかい」の部分は合唱で聞くと、荘厳(そうごん)さも感じられて大好きです。

歌っていて気持ちがいい曲だなと思いつつ、私が高校生のころに歌っていた合唱曲たちと比べると複雑なので、音程をとるのが難しいだろうな、と感じます。

「惑星そぞろ」を歌う高校生たち(写真・NHK提供)

―高校生たちにどう歌ってほしいと思っていますか。

審査のあるコンクールということで細かい歌唱テクニックの研鑽を積んでいる最中だとは思いますが、学校ごとに合唱編成も違うでしょうし、固くならずに楽しく気持ちよく歌ってもらいたいです。

出場する各校が想像力を膨らませながら、「惑星そぞろ」をどう表現してくれるのか、心待ちにしています!

【取材後期】経験の積み重ねが今につながる

特に高校時代のお話が印象的でした。テニス部の活動に取り組みながら、最終的に脚本家の活動に至った経緯が興味深かったです。一つ一つは独立した経験でも、その点と点が現在に繋がっているように感じられ、過去の積み重ねが今に通じるのだと思いました。(高校生記者・赤羽柚香=3年)

脚本家になるまでたくさんの経験をされたからこそ、多角的で、誰しもにとって身近だと思えるドラマ作品ができあがっているのだと感じました。私も、日常のなかの問題に目を向け、関心を持ち、さまざまな社会問題を自分ごととして考えられるようにしたいです。(高校生記者・櫻田結衣=2年)

のぎ・あきこ 1974年生まれ。東京都出身。2010年、脚本家デビュー。主な作品は、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ(海野つなみ原作)」、「アンナチュラル」ほか。23年にドラマW「フェンス」で第74回芸術選奨放送部門文部科学大臣賞を、25年に映画「ラストマイル」で第48回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。

第92回NHK全国学校音楽コンクール(Nコン2025)

Nコン2025ロゴ NHK提供

小・中・高の部門ごとに行われる全国各地での地区コンクール、全国8ブロックでのブロックコンクールを経て、10月に全国コンクールを開催。さらに、今年のNコンでは歴代の課題曲の中から好きな1曲を選んで合唱動画を投稿して応募する新企画「Nコンフェス 課題曲MV部門」も開催する。