高田拓人さん(兵庫・灘高校3年)は、高校2年の時に起業し、AI(人工知能)を開発する会社でCEO(最高経営責任者)を務めている。何をやっても好きなものが見つからず、「やりたいこと」を探してもがいた経験が、起業へと駆り立てた。(文・写真 黒澤真紀)

AI事業で起業「社会に影響与えたい」

高田さんは2024年10月、人と人工知能が共生できる社会を目指す株式会社アイナミックを立ち上げた。AI技術が不足しているソフトウエア開発企業に対して、AI機能の開発や技術検証を行っている。これまでに局所的な気象予測システムや、物流現場での発注最適化システムを開発した。

「自分が作った仕組みが社会に直接良い影響を与えられるんだと、すごく喜ばしかったです」

高田拓人さん

小3で株式投資、経済への感度向上

企業活動に関心を持つきっかけは、小学校時代にさかのぼる。父の影響で、小学3年のときジュニアNISAで株式投資を始めた。「半導体がアツそうだ!と投資する。勘です(笑)。パフォーマンスの良しあしよりも、長期でいろいろな企業を調べたおかげで、同世代より経済への解像度は高くなったと思う」

スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクにも強く憧れるようになった。「僕はせっかちな性格。若くして結果を残し、社会を動かした彼らに憧れました」

「僕にはできない」力の差を痛感

灘中学では、パソコン部で競技プログラミングに打ち込んだ。校内での成績はよかった。だが、中学2年と3年で出場した「日本情報オリンピック」では本戦に進めたものの、入賞には届かず、同世代トップクラスとの差を痛感した。「彼らは才能が違うし、プログラミングが本当に好きな様子でずっと解いている。僕にはできない」

しかし、「挫折」だと深く落ち込まず、意識を切り替えて前に進んだ。自分の「好き」を探して日本語ディベートに挑戦したり、生徒会長を務めたりした。

中学時代の高田さん。パソコン部で競技プログラミングに取り組み、生徒会長も務めた(本人提供) 

人生の意味、考え続け

中学3年の終わりから高校1年の夏にかけては、人生の意味を考えて何もしない時期もあった。「『好きなことをやれ』と言われる時代なのに、何をやっても『好きだ』と夢中になれるものがなかった」。しかし、それでは楽しくない。解決にもならないと気づいた。

自分を見つめ直す中で、一番強いのは「楽をしたい」思いと「承認欲求」だと分かった。「そんな自分を恥ずかしく思った時期もありましたが、根源的な欲求に従って何が悪い。幸せな方がいいじゃないですか」。どう生かすか考えた末に、「とりあえず動こう」と決めた。先輩やOBに「自分は何をするべきか、何ができるのか」を片っ端から相談した。

東大公開講座から起業へ

高校1年の冬、東京大学のオンライン上での講義「グローバル消費インテリジェンス寄付講座(GCI)」を受けたことが転機になった。「東大在学中にAIで起業し活躍していたOBから、講座の存在を教えてもらったんです」

人工知能や深層学習の第一人者・松尾豊教授らによる「松尾・岩澤研究室」が監修している。毎週2時間以上のライブ配信講義を受け、データサイエンスを通じてAIの基礎となる考え方を学びながら、ビジネスへの実装や活用するための技術を身に付けていった。

「基礎的なデータ分析を学べたのはもちろん、大学や先輩起業家、企業などがつながって、お互いに学び合い支え合うスタートアップのコミュニティーに入り込めたのが大きかった。親が経営者ではない自分が高校在学中に起業できたのは、そのおかげ。世界が広がりました」

映像クリエイターやアプリ開発者など18歳以下の生徒によるトークセッション「Life is Tech ! JAM 2025 U18」に登壇した

受講後、高校2年の4月から約1年間、松尾・岩澤研究室やAI技術を研究開発する企業でインターンに参加し、知見を広げていった。

AI開発で初の受注

10月に起業した。しかし、営業をしても、新規案件を依頼してくれる企業はなかった。「まだ高校生。リスクも考えると妥当な反応だと思う」。そこで、自社が一番強みを出せる「AIの開発」に特化して活動した。IT関連のイベントで知り合ったソフトウエア会社の社長から「手伝ってくれないか」と声がかかり、最初の仕事、物流現場での発注最適化システムの開発につながった。

「絶対に東京に出る」大学でも最適な選択を

社長としての活動のほか、中高では生徒会長を務め、軽音楽部に所属して、充実した毎日を送った。応用情報技術者の資格も取得した。

卒業後は、起業の環境が整っている東京で学びたいと考えている。第一志望は東京大学だ。「東京、なかでも本郷周辺は、AIに関する初心者向けの教育から大学での研究、企業でのインターンシップ、そして最終的に起業につながるまでの環境が段違いに充実しているんです。勉強は嫌い。でも、頑張るしかない」と笑う。

大学生になっても会社は続けるつもりだが、AI分野は競争が激化していて、今までと同じ戦い方では勝てない。「受験勉強の間にも状況は変わる。他のスタートアップへの参加も含め、その時に最適な行動を選びたい」と柔軟に未来を描く。

<ある日のスケジュール>

7:30 起床・登校

8:40〜15:00 授業

15:00〜16:30 体育祭の応援団練習など

17:00〜22:00 受験勉強が中心(勉強の合間に会社の会計などの業務を行うことも)

22:30 帰宅・夕食・就寝準備

24:00 就寝