吉田祐梨さん(東京・南多摩中等教育学校4年=高校1年相当)は、「アプリ甲子園」をはじめとする複数のコンテストで受賞するなど、「アプリ開発」の分野で頭角を表す高校生だ。「悩みをアプリで解決する」をモットーに開発を進める吉田さんに話を聞いた。(文・椎木里咲、写真・本人提供)
アプリで困りごとを解決したい
「自動で品詞分解をしてくれたらいいのにな」
古文の勉強中にふと思い浮かぶと、アプリで解決できないかとプログラミングを始める。吉田さんの毎日はアプリ開発を中心に回っている。中1から現在までに、6つのアプリを開発してきた。
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<これまでの歩み>
- 中1秋 アプリ甲子園のYouTube動画を見てアプリ開発に興味を持つ
- 中1秋 初めてのアプリ・海外大志望者向けの情報を得られる「Flavior」を開発。Technovation Girlsで編成した5人チームで作った。
- 中2秋 お弁当作りをサポートするアプリ「BentoPalette」のアイデアがアプリ甲子園決勝で入賞。
- 中2秋~冬 アプリ甲子園の副賞としてプログラミングスクールに半年間通い、知識を習得。
- 中3秋 「BentoPalette」のアプリ完成。アプリ甲子園決勝で準優勝。
- 中3冬 「風呂キャンセル」を防止するアプリ「Fulove」完成。東京都モバイルアプリコンテストで金賞。
- 高1春 古文の品詞分解を助けるアプリ(名前なし)や、クローゼットの整理を手助けするアプリ「Reroom」開発
- 高1・6月 高齢者の熱中症を防止するアプリ「Beat the Heat」でTechnovation Girlsで入賞。
「菓子パンばかり」な友人のためのお弁当アプリ
大会で結果を残すなど、代表作と言えるのは中2から中3のときに約1年間かけて作った「BentoPalette」だ。おかずの色や、どこに何を詰めるかといったお弁当内の配置が「テンプレート」として複数パターンまとめられている。選択したテンプレート通りにおかずを詰めれば、彩り豊かなお弁当を作れる、というアプリだ。冷蔵庫の中身を登録すると、AIがレシピを提案してくれるので、「何を作ろう」と悩まず済むのもポイントだ。

開発のきっかけは、吉田さん自身と友達が抱える弁当作りの悩みだった。「自分でお弁当を作るときは時間もないし、茶色いおかずばかりになってしまうのが悩みでした。友達は忙しくて作れなくなって菓子パンを食べていて……栄養バランスが心配になったんです」
アプリのアイデアは中2のときに思いつき、「アプリ甲子園」(ライフイズテックなど主催)のアイデア部門で決勝大会に進出した。中3のときに、独創的なアイデアを持つ小中高生などを支援するプログラム「未踏ジュニア」(一般社団法人未踏運営)に採択され、開発を進めた。中3の11月には「アプリ甲子園」の一般開発部門に出場し、準優勝した。

何をしても「ハンバーグソース」しか出ない
開発を進める中で、壁にぶつかった。「『肉』『キノコ』などユーザーがキーワードを入れてメニューを検索できる機能があるのですが、開発中に何を検索しても『ハンバーグソース』しか出てこなくなってしまったんです……」
書いたコードを一つ一つ丁寧に見直したり、未踏ジュニアのメンターや、同時期に採択された生徒へ相談したりして、約1週間かけてエラーを解消した。
入浴しないと「アイコンが汚れる」
中3の時には、風呂に入らず寝てしまう「風呂キャンセル」を防ぐため入浴記録を友達と共有する「Fulove」を、2週間程度で開発した。「入浴するときにアプリ上のボタンを押し、友達と入浴記録を共有するアプリです。入浴記録がないと、アイコンが汚れていきます」
Fuloveは都内の中高生を対象に行われた「モバイルアプリコンテスト2024」(東京都教育委員会主催)で金賞を獲得した。

「海外大」情報を検索できる
初めて作ったアプリは、海外大志望者向けの情報をまとめた「Flavior」だ。中1の時、YouTubeで同年代がアプリ開発する様子を見て触発され、アメリカのSTEM教育NPOが主催する女子中高生向けのアプリコンテスト「Technovation Girls」の日本ピッチイベントに参加。初対面の相手とチームを組み、海外大志望者向けに学びたい分野や学費、自身の英語力などに応じて海外大の情報が検索できる、掲示板のようなアプリ作りに挑戦した。
「Flavior」を作る中で、アプリ開発の楽しさにのめり込んでいった。「エラーが出てアプリが動かなくなっても、チームメンバーで試行錯誤して直った時は、すごく達成感を覚えました!」

YouTube駆使して知識習得
中2のときに出場したアプリ甲子園の副賞でプログラミングスクールに通う権利を得て、半年通い、コードの書き方などの基礎知識を身に着けた。その後は開発中に行き詰るたびにYouTubeで解説動画を探し、知識を身に着けている。
「プログラミングスクールに通ったのは大きかったです。未踏ジュニアに採択されていた時は、メンターの方だけでなく、同時期に採択されていた中高生もアドバイスをくれて心強かったです」
今は朝起きてから学校に行くまでの時間や放課後などの時間をアプリ開発にあてている。「朝は4時半に起きて、朝ごはんの時間までアプリ作り。コンテストの締め切りが近い時は、昼休みも使っています」
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<アプリ開発に取り組む吉田さんの平日の過ごし方>
- 4:30~6:00 起床。アプリ開発を進める
- 6:00~7:00 朝食を食べ、学校に行く準備をする
- 7:00~7:45 登校
- 7:45~8:15 「朝学習」の時間まで友達と話したり、プログラミングをしたりする
- 8:15~8:25 朝学習
- 8:40~12:30 授業
- 12:30~13:25 昼休み。昼食後はアプリ開発を進める
- 13:25~15:15 授業。HRを終えると帰路につく
- 16:30~18:00 帰宅。夕食までアプリ開発
- 18:00~19:00 夕食を済ませ、入浴
- 19:00~20:00 アプリ開発を一緒に行っているメンバーとミーティング
- 20:00~24:00 アプリ開発
- 24:00 就寝
アプリは「自分の悩み」を解決できる
吉田さんにとってアプリ開発の魅力は「悩みを解決できる」ところにある。「アプリがないと、すでにあるもので解決策を考えるか、悩んだままになってしまう。アプリを通して、悩んでいる人の行動に変化を起こせるのがうれしいです」

7月から10カ月間、東京都教育委員会の留学プログラム「次世代リーダー育成道場」に参加して、アメリカの高校に留学予定だ。プログラムでは留学を通して社会課題を研究することが課されており、吉田さんは「日米の食生活の比較」をテーマに決めた。「『BentoPalette』を通して、若者の食生活を改善したいと感じたんです。研究結果を、新しいアプリの開発に役立てたいです」
卒業後は農学部への進学を希望している。「勉強したことをITと組み合わせて、いつかは起業したいです」