長澤碧さん(大阪・天王寺学館高校2年)は、小学生の時に母を、中学生の時に父を亡くした。不安と苦しみにさいなまれ、長く不登校状態が続いた。暗闇の中から抜け出したきっかけは、通信制高校での友人との出会いだった。(文・野村麻里子、写真・学校提供)
母が交通事故死、ショックで学校に通えず
「とりあえず、すぐに病院に来てほしい」
小学校5年生の夏、塾の帰りに父が車で迎えに来た。兄とともに駆けつけると、母が交通事故で亡くなったと知らされた。
「これから先、私の人生はどうなってしまうんだろう」。あまりにも突然の出来事に、長澤さんは抱えきれないほどの大きなショックを受けた。

親子連れの姿を見たり、友達との会話で家族の話が出たりすると、母を思い出してしんどくなった。外出ができなくなり、学校にも通えなくなった。「どうしようもない不安を胸に、ずっと布団にくるまっていたんです」
毎朝5時起き、大量の課題に疲弊して
「状況を変えたい。今までと違う環境に身を置きたい」という一心で、県外の中学校に進学した。新しい友人ができ、思い悩む時間も減っていった。「私は生まれ変わったんだ!」と前向きな気持ちで、中学校生活のスタートが切れた。
だが、順調な日々も長くは続かなかった。毎朝5時起き、片道1時間30分の通学時間。毎週出される大量の課題。土曜の授業。心も体も徐々にすり減り、学校を休みがちになった。

不登校生活に逆戻り「チャンスを無駄に…」後悔強く
中学2年で地元の中学校に転入したが、不登校の生活に逆戻りした。「県外の中学校に通うせっかくのチャンスを無駄にしてしまった……」。強い後悔で心が重くなり、布団から起き上がれなくなった。
カウンセリングを受けながら、午後からの登校に挑戦しつつも、思うようにはいかなかった。
「どうにでもなる」父が優しく支え続け
「これから先、どうにでもなるから大丈夫」。優しく支え、励ましてくれたのは父だった。
父は仕事が忙しく、夜遅く帰ってくるため、ゆっくり話はできなかった。だが、長澤さんの精神科への通院に付き添い、帰りに「ちょっと食べに行こう!」とそば屋に寄るなど、たわいもない時間を作ってくれたことがとてもうれしかった。
父が自殺「なんで死んだの?」罪悪感が襲い
中学3年の夏休み前、家の電話が鳴った。警察から、父が自殺したと知らされた。目の前に暗闇が広がるようだった。
前夜、父は普通に晩御飯を食べていた。「なんで死んだの?」
ひたすらに自問を繰り返した。「止められたんじゃないか」という後悔と罪悪感が襲った。現実から逃げるため、布団の中で眠り続けた。

「推し」キャラが一緒で友達と急接近
転機は、通信制高校への進学だった。毎日学校に通うコースで、友達や先生に出会い、心が安らいでいった。
クラスメートとLINEを交換しようとしたら、「原神」というゲームの画像が目に入った。「私もやってるよ!」と話が盛り上がる中で、推しているキャラクターが一緒だとわかり、急速に仲良くなった。
友達とのお泊り会で、初めて両親の話を打ち明けた。「何かあるんじゃないかと思っていた」と受け止めてくれて、さらに距離が縮まった。学校に行けば、気の知れた友達がいる。登校のモチベーションが上がっていった。

2年生で特進クラス「評判の生徒」に
授業も長澤さんにとってちょうどよいスピードだった。授業終わりに配られる出席カードに、わからない部分を書くと先生から教えてもらえた。先生への質問に抵抗があったため、ありがたかった。順調に学力を伸ばし、2年になると特進クラスに進級できた。
教頭の高井雅志先生は、「1年生の時から努力家」だという長澤さんの姿を見守ってきた。「長澤さんは、授業に毎日休まず出席して、学習に対する姿勢が素晴らしく、行事などにも積極的に関わっています。クラスに安定感をもたらしてくれる、教員の中でも評判の生徒です」
周りに相談できる自分になれた
昨年11月、定時制や通信制に通う生徒が体験談を発表する「全国定時制通信制生徒生活体験発表大会」の全国大会に出場。両親のこと、不登校の経験、前向きに高校生活を送っている今の自分自身を伝えた。「思い出すとちょっとしんどくなったけれど、自分の中で消化できたと感じます」
中学時代と比べて、周りに頼る力が付いたと感じている。「失敗も多く、ネガティブな考え方をしがちでしたが、今は困ったら友達や周りの人に相談できるようになり、一人で抱え込みづらくなったんです」
卒業後は、大学に進学して心理学を学ぶ予定だ。「心を理解したいという気持ちがあるんです」

「いつかちょっとでもよくなる日が来る」
いま苦しみの渦中にいる同年代へ、伝えたいことを聞いた。「今つらいのは、無理に変わる必要はないけれど、ちょっとでもよくなる日がいつか来る。いつになるかはわからないけれど、つらい日々が過ぎる日が来るから、信じて今を生きてほしい」
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