茨城県に住む悉知信(しっち・あきら)さん(S高校2年)は、小学校の頃に骨折させられるほどの壮絶ないじめを受け、中学時代に不登校になった経験から、弁護士を目指す。夢への一歩として、高校1年生の時に合格率10%程度の難関資格である行政書士試験に挑戦し合格。胸に抱くのは「法律でいじめ被害者を救いたい」という思いだ。(文・黒澤真紀、写真・本人提供)
転ばされ骨折「担任に泣きながら訴えたのに…」学校は助けてくれず
悉知さんは小学6年の冬にいじめを受け、不登校になった。相手は悉知さんが私立中学受験を目指していることを知り、面白く思わなかった同級生たちだ。「あいつはかなり勉強しているらしい」とうわさされ、悪口を言われたり、けがをさせられたりするなど数々の嫌がらせを受けた。
一番ひどかったのは、給食の時間に足をもたれて転倒させられ、体を支えようとした左腕を骨折したことだ。痛みと悔しさで泣きながら担任に訴えたが、「あなただけの証言では証拠にならない」と何もしてくれなかった。事情を知った父親が激怒して学校に行ったが、「生徒にアンケートを取ったが、彼らは『いじめていない』と言っている」との担任の返答に失望した。
中心人物が同じ中学に進学した苦痛で不登校に「親に迷惑かけたくない」と退学
中学受験当日も左腕にギプスをしたまま試験に臨んだ。結果は第2志望の私立中高一貫校に合格。しかし、そこにはいじめの中心人物も進学していた。
同じ中学に通うことが精神的な負担となった。コロナ禍の休校も重なり、悉知さんは次第に学校に行けなくなってしまった。「学校に行けないのに学費で親に迷惑をかけたくない」と、中学2年の終わりに退学を決意。中学3年の1学期から公立中学校へ転入した。
「そこで、初めて僕のことを真剣に考えてくれる先生に出会ったんです。休み時間に話しに来てくれたり、ひとりになれるスペースを作ってくれたりして、向き合ってくれました。進路の相談にも親身になってくれて、先生がすすめてくれた通信制高校に進学することにしました」
「苦しむ人救いたい」弁護士になる夢のため行政書士の資格試験に挑戦
いじめにあう前から、ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」の影響で、弁護士に興味を持っていた。いじめにあったことで、「同じように苦しんでいる人を救いたい」という思いが沸き上がり、強く志すようになった。夢への第一歩として目指したのが、法律系の入門資格とも位置付けられ、行政へ提出する書類の作成や手続きを代理で行う「行政書士」資格の取得だ。
高校に入学してすぐ、4月から勉強を始めた。市販のテキストだけでは足りず、映像授業も受講。スマホの計画表で1日の勉強量を管理し、復習のタイミングは忘れないようにリマインダーを設定した。「やる気が出ないときも、リマインダーが鳴ったら5分でも机に向かいます。勉強時間ゼロの日は絶対に作らないと心に決めていたので」。法律用語の難しさには頭を抱えた。努力を重ね、昨年11月に受験。今年1月、合格した。試験に向けて1日3~4時間、合計約600時間勉強した。
「同じ思いをした人を救うには法律しかない」専門家にアポ取り知見深める
自身の被害を振り返ったとき、「弁護士に相談していたらよかった」と考えることがある。「法律的な観点から捉え、適切な対応策を提案してくれたかもしれません」
今は、いじめ問題など教育問題に詳しいスクールロイヤーを務める弁護士や大学教授と交流し、いじめに関する知見を深めている。国会議員や市議会議員など政治家へもアポイントメントをとり意見交換をしている。すでに水戸市議会議員の7割に面会をした。
「僕と同じ思いをした人を救うためには法律しかない」と語り、5月には水戸市議会に「いじめの防止に関する条例の制定を求める陳情」を提出した。「現状の制度や法律を変えたいなら、政治にも目を向けるべきだと思うんです」
「スクールロイヤーになりたい」弱者に寄り添う法律家目指す
高校では政治部に入部し、政治家をゲストに呼んで意見交換を行うグループワークにも参加した。さらに、インターネット上のトラブルで悩んでいた友人に、法的な窓口に相談することを勧め、事なきを得たこともある。「日本は法治国家。何か困っていることがある人に、法律は身近なものなので、頼れるものだと思い出してほしい」
今後は高校在学中に司法試験予備試験に挑戦することや、卒業後の法学部進学を考えている。目指すのは、弱者に寄り添う法律家だ。「子どもの権利を守れるスクールロイヤーになり、いずれは政治家を目指したいです」
※この記事は高校生新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。