藤居星(あかり)さん(北海道・札幌南高校3年)は7月にオランダで開催された「第4回ヨーロッパ女子情報オリンピック」(EGOI2024)に日本代表の一人として出場し、日本人選手として初めて2年連続の金メダルを獲得した。「絶対にメダルを取りたい」という思いを胸に、大会に向けてどんな努力を重ねたのか。(文・木和田志乃)

4年連続でプログラミングの国際大会に出場

ヨーロッパ女子情報オリンピックは、高3以下の女子を対象としたプログラミングの国際大会だ。男子の活躍が目立つ情報科学の分野で、女子の活躍にも焦点を当てようという背景がある。今年で4回目の開催となり、195人が参加。日本代表は、日本情報オリンピック女性部門の成績優秀者から選ばれている。メダルは参加者の約半分に授与される仕組みで、金・銀・銅の割合はおよそ1:2:3だ。

教本や過去問を使って勉強を重ねた(本人提供)

藤居さんは、昨年、今年と続けて金メダルを獲得した。中学3年で出場した第1回大会では銀メダルを獲得したものの、第2回大会は準備不足でメダルは取れず、悔しい思いをした。第3回大会は金メダルを獲得したが、「たまたま得意な問題が出題され、運がよかった」という。それだけに今年は「絶対に金メダルを取りたい」という思いがあり、油断せずに入念に準備した。

同大会の過去問だけでなく、難易度が同じ程度の国内大会の過去問など、大会前は平日3時間、休日は10時間以上、問題を解いた。競技中の時間配分も想定して取り組んだ。国際情報オリンピックに出場経験のある選手団団長らには、問題への取り組み方やメンタルの保ち方などについてアドバイスを受けていた。

逆転して金メダルを獲得

大会期間は1週間に及び、競技以外にもさまざまな行事が予定されていた。「競技以外のところで心配したくなかった」という藤居さんは、移動や起床後の行動なども含め、スケジュールを何度も確認しながら事前にイメージトレーニングを繰り返し、不安な点をなくすようにして大会に臨んだ。

競技は2日間にわたって行われる。競技時間は1日に5時間、4問の問題に取り組む。1日目は金メダル圏外だったが、2日目で逆転し、見事金メダルを獲得した。準備を重ねたことで「プレッシャーに負けずに実力を発揮できた」と自己分析する。「金メダルを取れて、本当にうれしい気持ちでいっぱいだった」と喜びを語った。

さまざまな国の出場者と交流を重ねる藤居さん(情報オリンピック日本委員会提供)

強みは世界大会でも「動じない」メンタル

大会に同行した情報オリンピック日本委員会理事で東京大学大学院の山口利恵准教授は、藤居さんの強さを「数理的な発想や考え方がすばらしい」と語る。「それだけでなく、メンタルの強さが光る。世界大会では萎縮したり、逃げ気味になったりする出場者もいる。しかし藤居さんは与えられた環境に動じることなく、淡々と作業ができる」と評する。

情報オリンピック出場の兄に影響され

父が趣味としてプログラミングを楽しむなど、昔からプログラミングが身近な環境で育った。

「第4回ヨーロッパ女子情報オリンピック」で金メダルを獲得した藤居星さん(本人提供)

日本情報オリンピックに参加経験のある4歳上の兄が楽しそうにしている姿を見て、小学5年生のころからプログラミングに興味を持った。競技プログラミングのサイトにある問題や情報オリンピックの予選の過去問を解き、分からないところは解説書やネットの記事を読んで理解するなど、独学で勉強。小・中学生の頃は休日に8時間ほど問題に取り組んでいた。

1問に2時間「解けた時の喜びが大きい」

高校卒業後は情報オリンピックへの応募資格がなくなるため、「大学生向けのプログラミングコンテストへの出場」が次の目標だ。「1問解くのにかかる時間が長く、2時間かかることもある。そのため解けたときの喜びが大きく、今まで続けてこられた」という。「プログラミングの能力以外にも問題を解決する力や自分で考えて実行する力も身に付いた」ともこれまでの歩みを振り返った。

大学進学後は「経済学を学びたい」という。データの分析など、経済学の分野において競技で培った力をどのように生かしていけるか探すつもりだ。