受験なのに風邪で体調不良……なんて事態は絶対に阻止したいですよね。冬はインフルエンザや風邪、新型コロナウイルスなどが流行しがちな季節。感染症にかからず健康な体でいるために心がけたい「免疫力をアップする」生活習慣について、免疫に詳しい医師の清益功浩先生に聞きました。(木和田志乃)
■目次■
1、免疫力が必要なのはなぜ?
2、オススメの睡眠時間は?
3、オススメの運動は?
4、オススメの食品は?
5、しょうがは効果あるの?
6、体に良いお風呂の入り方は?
免疫力が必要なのはなぜ?
―感染症にならないためには「免疫力を上げることが大事」だと聞きます。
感染症とは、細菌やウイルス、真菌(カビ)など「体の機能を低下させる病原体」が体内に入って、症状が出る病気です。インフルエンザウイルスのように呼吸器に感染して、せき、鼻水、発熱の症状を引き起こす病原体もあれば、ノロウイルスのように胃腸に感染して嘔吐(おうと)、下痢、腹痛の症状が出る病原体もあります。
人から人への感染はもちろん、ペットやマダニなど生き物からも感染します。免疫力が強ければ免疫細胞が病原体を体から排除して発症せずにすみますが、感染力が非常に強い病原体や増えやすい病原体であれば発症してしまいます。免疫力が低下していても発症しやすくなります。
―どうすれば免疫力を上げることができますか?
基本的には「規則正しい生活をすること」「睡眠をしっかりとること」「バランスのよい食事をとること」です。
【睡眠】6時間は確保して
―受験生はついつい寝る時間を切り詰めて勉強しがちです。何時間寝るとよいでしょうか。
必要な睡眠時間は個人差があるので一概には言えませんが、最低でも6時間あった方がいいとは言われています。睡眠中は深い眠りである「ノンレム睡眠」と、浅い眠りである「レム睡眠」が約90分のサイクルで繰り返されます。6時間ぐらいでちょうど目が覚めやすいと一般的には言われています。
―睡眠時間が短いと起こる体の影響は?
睡眠時間が短いと免疫力が下がり、感染症にかかりやすくなるという報告があります。睡眠時間を確保するためには規則正しい生活を送ることが大切です。特に受験生であれば、寝る時間や起きる時間を一定にして生活リズムを整え、適度な運動をして体調管理をしていくことが必要になるでしょう。
【運動】歩いて体を動かそう
―どの程度、運動すればよいものですか?
「運動しないと!」と意気込んで激しい運動をすると、かえって疲労がたまってしまい免疫力が低下するので、疲れない程度に行ってください。
ウォーキングは良いと思いますね。歩きながらの考えごとや暗記は私も昔、やっていました。受験生は時間がないと思いますが、ずっと座りっぱなしで勉強していることを想定するなら、眠気予防を兼ねて部屋を出て歩いてみるのがいいでしょう。
【食事】栄養素に意識して偏りなく
―食事で気を付けることを教えてください。
朝食をきちんととってください。昨今の子どもの平均体温が少しずつ下がっているというデータもあり、体温が下がると免疫力も低下することがあります。
―免疫力アップのために、とるとよい栄養素はありますか?
体温を上げるためには、カロリーをしっかりとることが大切です。そのためには、脂肪もタンパク質も必要です。ブドウ糖は脳の栄養となりますから、炭水化物もしっかりとってください。タンパク質は肉、魚を中心にとることになるでしょう。免疫細胞の働きを高めるために、必要な葉酸やビタミン類、亜鉛や鉄といったミネラルなどをしっかりとることが重要かと思います。
―それらの栄養素が含まれる食材は?
葉酸は葉物野菜、亜鉛はかきやレバー、鉄は赤身の肉や魚、ビタミン類は野菜や果物などのほか、動物性食品にも含まれています。果物に含まれるクエン酸も胃腸の働きを整えるので、ふだんからとるといいと思います。
―どんな食事メニューがオススメでしょうか。
よく聞かれますが、何らかの病気を持っている患者さんに対して栄養素を補充したり、除去したりする意味での食事指導はしますが、予防的に特定のメニューをすすめるということはしません。同じメニューばかりをずっと食べても体に良くありませんからね。さまざまな食品をバランスよく食べるのがとにかく大事です。
しょうがは免疫力アップによいの?
―体を温める食品と言えば、しょうがが思い浮かびます。そのほかにも、風邪予防や免疫力アップに効果があると言われる食品がありますが、医師から見て本当に効果があると言えるのですか?
同じことは患者さんからもよく質問されます。「しょうがは体を温める」「せきにはのどにネギを巻くといい」など、昔からある民間療法と言われているものですね。
「ある食品を食べて免疫力が高まった結果、感染症をどの程度防ぐ効果があるか」を調べるためには、「食べた場合」と「食べていない場合」の比較検討が膨大に必要になります。そうなるとかなり費用と時間がかかり、食品以外の別の要素にも左右されて検証が難しいため、研究は多くはありません。
「効果がある」とする論文も、「ない」とする論文もあるので、医学的に効果を証明するのは難しいです。効果を感じる、感じないも個人差があるので、高価でなく手軽に取り入れやすいなら試してみてもいいとは思います。効果があるともないとも言えない、あくまで健康管理のプラスアルファ程度であることがあります。
体に良いお風呂の入り方は?
―体温と免疫力はなぜ関係があるのでしょうか?
例えば、感染症にかかると白血球に含まれる物質(プロスタグランジン)が増えて発熱が起こります。発熱によって免疫力が高くなり、病原体を排除する細胞が活性化して体を防御する機能を人間は持っています。逆に、体温が下がれば免疫力が低下し、感染しやすくなります。免疫力を上げるには体温を上げることが必要です。
―お風呂に入ると体温が上がりますよね。免疫力アップにつながりますか?
お風呂に入ると体温は上がり、血行もよくなりますが、体は急激に温まると逆に元に戻そうとします。湯が熱いと風呂上がりに体温を下げようと働いてしまう可能性があるので、熱い湯につかる必要はありません。38度から40度の湯にゆっくりつかる風呂入浴をおすすめしますが、忙しい場合はシャワーで済ませても大丈夫です。
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【受験生のギモン】勉強中におなかがすいた……夜食は食べてもよいの?
高血糖が持続すると、肥満など生活習慣病の原因になりますので、一般的に夜遅くの食事はよくないと言われています。ただし夕食が早いとおなかがすいて夜なかなか眠れないというケースもありますので、そんな場合は血糖値をあまり上げない食べものをとるようにしてください。例えばタンパク質の多いものや脂肪が少なくて胃の負担になりにくいもの、炭水化物の中でもご飯よりパスタなど血糖値の上がりにくいものを選びましょう。そして大量には食べず、食後にすぐに寝ることだけは避けてほしいです。
清益功浩先生
きよます・たかひろ 大阪府済生会中津病院免疫・アレルギーセンター部長。小児科専門医・アレルギー専門医。京都大学医学部卒業後、日本赤十字社和歌山医療センター、市立岸和田病院、京都医療センターなどを経て、現職。