辻󠄀窪凛音(つじくぼ・りんね)さん(東京・早稲田実業学校高等部3年)は、今年1月、暗算のギネス世界記録を更新した。5歳でそろばんを始めた辻󠄀窪さんは、今日まで一日も練習を欠かしたことがない。どんなふうに努力を重ねてきたのだろう。(文・黒沢真紀、写真・本人提供)

「頭の中のそろばん」で計算

「フラッシュ暗算」は、モニター画面に一瞬のうちにパッ、パッと表示されては消える3桁の数字を次々に暗算で足し合わせる。その数15回。辻󠄀窪さんが暗算のギネス世界記録を更新した時の記録は「1.62秒」と、それまでの記録を0.02秒更新した。

 

どうやって計算しているのか? 「最初の数字が画面に表示された瞬間、頭にそろばんの珠(たま)が浮かぶので、そのあとは、次々に表示される数字を頭の中のそろばんではじいていきます」。暗算をしながら、それまでに解いた問題の検算もしているというから驚きだ。

5歳から塾で腕磨く

5歳の冬からそろばん教室に通い始めた。高校3年生の今まで、毎日練習を続けている。そろばん大会のそろばんの部、暗算の部のどちらにもエントリーしながら腕を磨いてきた。

小学1年の頃から珠算部に歴代のそろばん王者が集う早稲田実業学校に憧れを抱き、高校から入学した。「コロナ禍の前は、週5日そろばん教室で練習したあと、自宅で2時間練習していました。長期休みや大会前は朝9時から12時間練習することもあります」

2023年1月、フラッシュ暗算ネット検定主催の大会で優勝し、ギネス記録への挑戦権を得た

修学旅行にもテキスト持参

現在、大学進学に向けての勉強が忙しいが、それでも週4日そろばん教室へ通い、帰宅後の練習も欠かさない。「練習は楽しいから苦じゃありません。点数が伸びていくのがわかるので達成感もある。これまで一日も練習を欠かしたことはなく、修学旅行中でも旅行先にテキストを持参して20分だけ問題を解きました」と笑う。

多くの日本一のタイトルを持っているが、「燃え尽き症候群になることはない」と話す。「まだまだ優勝できていない大会がある。一つの大会が終わってもすぐに次の目標が見えるから」だ。「一つのことを決めたら最後までやり遂げる」マインドが強みだ。

中学生の頃の辻󠄀窪凛音さん。数多くの大会に出場し、経験を重ねることで本番に強くなった

緊張をコントロールできる力がついた

そろばんを長年続けてきたことで計算力や集中力、忍耐力はもちろん、緊張をコントロールする力も身についた。昔は緊張して結果が出せず、悔しい思いをしたという。「緊張感やプレッシャーはなくならないけど、経験を重ねるうちに気持ちをコントロールできるようになってきた。緊張のやわらげ方を身につけました」

もともとは人見知りだったが、全国各地の大会に出場するうちに同じ種目に出る年齢の近い子たちと話すようになり、友達の輪がどんどん広がり、コミュニケーション力もついた。同世代の活躍に刺激を受け、「自分も頑張ろう」と気合が入る。

将来の夢は模索中だ。「そろばんで鍛えた暗算力と、これまで培ってきた集中力をなんらかの形で生かしたいです」