渡辺春音さん(神奈川・アレセイア湘南高校3年)は、自他ともに認める「古典オタク」だ。古典の魅力をもっと多くの人に伝えたいと考え、学校の探究学習で「お笑い×古典」をテーマにネタを作成。お笑いライブに出演する活動を続けている。

自他ともに認める「古典オタク」

渡辺さんは、和歌の分析や古典作品の考察、百人一首の「聖地巡礼」などに情熱を注ぐ、自他ともに認める「古典オタク」だ。興味がない人に古典の魅力を伝えるため、お笑いライブに出場している。

「古典が大好き」という渡辺春音さん(学校提供)

五・七・五にとらわれず自由に、感じたままに表現する俳句「自由律俳句」を古語に翻訳してみせるフリップ芸や、掛け言葉を用いた短歌ネタなどが持ちネタだ。

競技かるたが原点

古典に夢中になったのは、小学5年の国語の授業で見た競技かるたの動画がきっかけだ。「札を取る動きがとてもかっこよくて、夢中になりました」。競技かるたを続けるうちに、和歌のリズムや表現の奥深さに引かれていった。

古典の魅力は、歌の意味や情景を想像・予測する楽しさにあるという。「古典には、現代の私たちにも響く感情が詰まっているんです」

「古典ってどこが面白いの?」友人の言葉が原動力に

周りに古典を語れる友達がいなくてさみしく思うなかで、古典愛を友人に話していたとき、「古典ってどこが面白いの?」と言われてショックを受けた。

「古典に興味がないなんてもったいない!」と悔しさを胸に、古典の魅力を伝えることを学校の探究学習のテーマにし、2年生の5月中旬から活動を始めた。

中高生300人にアンケートを取ったところ、8割が古典に「興味がない」と回答。「もっと古典を広めたい」と決意し、現代人に古典の面白さを感じてもらうため、お笑いと古典を掛け合わせるアイデアを思い付いた。「私はお笑いも好きなんです。自分の『好き』をもう一つの『好き』で伝えられたら最高ですよね」

性質の違う「面白さ」を両立したい

古典とお笑いの「面白さ」は性質が違う。古典は「interesting」、お笑いは「funny」。両立の難しさに悩みながらも、プロの芸人のネタを研究し、「ウケる」構成を探った。

ネタを披露する場としてライブを選んだのは「伝えることが目的だから」。SNSではなく、観客の直接的な反応を重視した。最初のライブでは、古典よりも自虐ネタの部分がウケてしまい古典の面白さを伝える本来の目的を達成できず悔しかった。

古語のフリップ芸でR-1グランプリへ

新たに「古語翻訳ネタ」を作った。例えば「職員室だけ とても暖かいのなんで ずるい」の自由律俳句を、古語にすると「師室ばかり いと暖かきなれば こすし」となる。「1文字もかすっていない(笑)。『ずるい』が『こすし』になるなんて、まったく予想できない面白さがありますよね」

自由律俳句をフリップ芸で表現した(学校提供)

このネタでR-1グランプリに出場。1回戦敗退だったが、「ウケてほしかった『こすし』の部分でウケたんです! 古典を伝えるという目標に一歩近づけた」と手ごたえを感じている。

目指すは古典の「超入門編」

「私のネタが『古典・超入門編』のような役割を果たせたらうれしいです。いずれは古典作品の魅力そのものを伝えるネタを披露したい」