内倉凛華さん(茨城・江戸川学園取手高校3年)は、「性犯罪が起きない環境」を作るために個人で活動をしている。駅や商業施設を調査し、ポスターを作成。行動力が身を結び、商業施設の協力を取り付けた。(椎木里咲)

「私にもできることがある」活動始める

これまで性被害に遭ってきた。高2で「安全な場所だ」と感じていた商業施設のエスカレーターで盗撮被害に遭ったときは、数日間エスカレーターを見るだけで動悸がした。どの被害も警察に相談したものの、「現行犯でないと逮捕できない」と取り合ってもらえなかった。「今でも完全に怖さが消えたわけではないです。一人のときはできるだけエレベーターを使うし、母と一緒の時にエスカレーターに乗るときは、下に乗ってもらっています」

商業施設で盗撮された日、泣きながら自分が受けた被害に向き合った。盗撮の起きやすい場所や犯人の心理について調べていると、性被害者の検挙件数データを見つけた。「被害に遭っても恥ずかしくて言えない人や、そもそも気づいていない人もいるから、被害者数は一部にすぎないだろう」と思うと、「性犯罪が起きる状況をどうにかして変えたい」と感じた。「このままでいいわけない。『変えたい』じゃなくて『変える』んだ!」という感情がわき上がったんです」

「中高生探究コンテスト」でプレゼンする内倉さん(主催者提供)

20冊以上の本を読み情報収集

高2の夏ごろ、まずは情報収集から始めた。犯罪を予防する空間デザイン「防犯環境設計」や犯罪者自身の心理に関するものなど、20冊以上の本と10本以上の論文を読みこんだ。

20以上の駅に足を運び防犯設計を調査

続いて、4つの商業施設と20以上の駅に足を運び、人の目につきにくい場所はどこかなどと「犯罪者の視点」に立ってフィールドワークを行った。商業施設では、防犯カメラの位置や台数、死角、鏡の有無、エスカレーターの長さなどを調べた。

「例えば防犯カメラが多い施設では、廊下の分かれ道やエスカレーターなどに設置していて、犯罪抑止に効果があると感じました。一方で、トイレだけに設置している施設もありました」

商業施設のマップを見ながら歩き、危険要素がある場所に注目した(本人提供)

性犯罪の「目撃者」に「できることを伝えたい」

駅では、商業施設で確認した点に加え、「痴漢防止ポスター」の内容に注目した。調べると、「盗撮は犯罪です」など加害者に向けたポスターや、「気を付けて」など被害者になりうる人に向けたポスターは多かったが、「目撃者」に対して行動を促すポスターは、内倉さんが調べた駅では見かけなかった。

「被害者になりうる人へ向けて『気を付けて』と伝えても、実際に被害に遭うと声を出すのは難しい。性犯罪の目撃者に向けて『できること』を伝えられるといいんじゃないかと思ったんです」

商業施設にポスター掲示を提案し実現

4つの商業施設のうち、防犯環境設計の面で課題があると感じた1件の商業施設に向け、防犯カメラや鏡の設置、自らデザインした性犯罪防止のポスター掲示などを盛り込んだ提案書を作り、持ち込んだ。

ポスター掲示が認められ、性犯罪を目撃した時に取るべき行動を具体的に示した目撃者向けポスター、「防犯対策強化中」だと伝える加害者向けポスターの2種類の設置が決まった。

「商業施設と性犯罪」をテーマに活動続ける

2月、全国の中高生が自身の探究活動を発表する「中高生探究コンテスト2025」(CREATION DRIVE主催)に出場。応募総数4275件から勝ち抜き、優秀賞を獲得した。

今後も「商業施設と性犯罪」をテーマに、探究を続けていく予定だ。