高校生新聞オンラインで配信した「授業内で歴史の教科書が終わらず不満を訴える高校生の記事」が反響を呼んだ。教科書内容を終わらせない学校に問題はあるのか、学校ごとに学ぶ範囲に差が出ることは入試で不公平ではないのか。現在の状況や対処法を元校長の石川一郎さんに聞いた。(文・安永美穂)

教科書が終わらないのは不公平?

「歴史総合の教科書内容を半分しかやらずに授業が終了した。学校ごとに学習範囲が異なるのは不公平ではないか?」

今年4月、高校生新聞オンラインで高校2年生の体験談を掲載した。1910年の韓国併合までしか授業内で扱わず、歴史総合で受験する場合、習っていない範囲は自主学習の必要があると先生に言われたという。

「歴史総合」は、2022年度の高校1年生から実施されている新学習指導要領において、新たに必履修科目として設置された。2単位の科目で、年間で70単位時間の授業を行うことが目安とされている。

「旧課程では『世界史A』と『日本史A』がありました。近現代では世界と日本の出来事は密接に関連し、分けて考えることが難しい部分も多々あります。これらを融合することで、世界と日本の相互関連性に注目しながら近現代史を幅広く学べるようにしたのが『歴史総合』です」

歴史総合の教科書と資料集

歴史総合は「扱う内容が多すぎる」

石川さんによると「教科書の内容が授業中に終わらない」という事態は、かなりの数の高校で起きている可能性があるという。歴史総合は、世界史Aと日本史Aの2科目の内容を融合して学ぶのに加え、知識を覚えるだけではなく、歴史的事象の原因などの考察にも重きが置かれている。

「先生が板書した内容をテストで確認するといった従来型のスタイルの授業だと、扱う内容が多すぎて全範囲が終わらないことも予想されます」

高校生記者は、学校によって学ぶ範囲が違うことを「不公平だ」と感じていた。だが、「そもそも、学習指導要領の内容は『こういうことを教えましょう』という努力義務にすぎず、『この内容を教えなければならない』という強制力を持つものではない」という。

「歴史の見方」習得を重視

高校生に知っておいてほしい前提として、「小学校・中学校で受けてきた社会科の授業と、新課程の歴史総合では求められる学び方そのものが違っている」と石川さんは言う。

「歴史の基礎は中学校までの授業で習っていますし、現在は検索すれば必要な知識はすぐに入手できる時代です。そのため、歴史総合の学びでは『なぜこの出来事が起きたのか』『どうしたらこのような事態を防げたのか』『このような歴史を踏まえた上で日本と世界が良好な関係を築くにはどうすればよいのか』といった、より高次なことを考察するプロセスが重視されています」

平成30年文部科学省発表・「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説【地理歴史編】」より

「考え方」を身に着けることが大切

歴史総合は2025年度の大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の出題科目にも含まれている。授業で全範囲が終わらなかった高校の生徒が不利になることはないのだろうか。

2022年度の共通テスト

高校にとって進学実績は重要なため、大学進学を希望する生徒が多い高校の教員は基本的に「入試でよく出題される重要なテーマ」を優先して授業で取り上げる。

「教科書が全て終わらなかったとしても、重要なテーマは授業で習っているケースが多いはず。大事なのは『考え方』や『ものの見方』を身に着けることです」

教科書内容は「読めば身につく」

2021年度入試から導入された共通テストでも「知識を活用して考察する力」が重視され、初見の資料から何が分かるのかを読み解く力を問う出題が増える傾向にある。「極端な言い方かもしれませんが、教科書の内容は自分で読めば身につけられるもの。歴史総合の授業では、グループワークや探究的な学びを通じて、教科書に書かれている知識をどう活用していくのかという『歴史の見方』を身につけることが重視されています」

授業でこうした「歴史の見方」を身につけておけば、授業で習わなかった範囲に関しても自分なりの考察ができるようになる。それが新課程の大学入試対策にもつながるはずだという。

不公平感はもっともだが…

学習指導要領や大学入試が新課程に切り替わるのに伴い、「授業は知識の活用方法を教える場となるため、教科書が全て終わるかどうかは以前ほど大きな意味を持たなくなってきている」と石川さんは話す。

「学校ごとに授業で習う範囲が違うことに高校生の皆さんが不公平感を抱くのはもっともなことですが、全範囲が終わらなかったとしてもやみくもに不安にならずに、自分の進路に応じた対策をしていくことが重要だといえるでしょう」