夏のインターハイに続き、ウインターカップ(全国高校バスケットボール選手権大会、2022年12月23日~29日開催)で3位入賞を果たした中部大第一(愛知)。キャプテンの小澤飛悠(3年)はプレーだけでなくコート内外での人間力も光っていた。(文・青木美帆、写真・日本バスケットボール協会)

配慮欠かさず輝くキャプテンシー

残り11.9秒。スコアは64-73。準決勝の福岡第一高校(福岡)戦の勝敗はすでに決していたが、小澤は、素早くエンドラインからボールを入れ、乱れたパスを拾い上げてシュートを放った。

福岡第一戦では体格を生かして果敢にゴール下に切り込み、得点を量産した

ハーフラインの手前から放たれたボールは、リングを大きく外れ、ゴール背部の観客席に飛び込んだ。小澤はそこに一目散に駆け寄ってボールを受け取ると、相手にぺこりとお辞儀をしてコートへ戻った。最後の最後まで試合をまっとうし、他者への配慮を欠かさないその姿は、強豪校のキャプテンにふさわしいものだった。

体重100キロの中学時代からリーダーへ飛躍

同校の常田健コーチが小澤を見初めたのも、彼の人柄によるところが多かったそうだ。中学最後の大会となった夏の関東大会は初戦負け。小澤は「無名だし全然うまくなかったし、体重も100キロくらいありました」と当時を振り返るが、常田コーチは小澤の体格に似つかわしくないシュートタッチに加え、素直で真面目な性格を評価したと話している。

常田コーチの「県1位になりたいのか、日本一になりたいのか」という言葉に導かれて中部大第一に進学した小澤は、6月に学年のリーダーに指名され、ウインターカップではわずか3人しかいない1年生メンバーの1人に名前を連ねた。順調なスタートとなった1年目と対象的に、2年目は苦しんだ。学年が上がったのにも関わらずプレータイムが伸びず、試合に出られない日々が続いたのだ。

 キャプテンとして味方にも気を配った。「問題児が多かったけれど、最後は目標に向かって1つになれたと思います」

日本中の人の思いを背負ってプレー

常田コーチからは何度も「リーダーを降りろ」と言われたが、厳しい言葉の裏に愛情があることはわかっていた。落ち込みそうになるときは「下手くそなのに1年からメンバーに入れてもらっているんだから、自分が成長しないのが一番ダメ」と自らを励まし、誰よりも早く体育館に行き、誰よりも遅い時間に体育館を出る日々を重ねた。そうした努力が結実し、小澤はインサイドでもアウトサイドでも得点が取れ、目立たないプレーで体が張れる頼もしい選手に成長。U18日本代表のメンバーにも選出された。

小澤は今大会、コートに出入りするたびに小さく頭を下げていたが、これはU18日本代表入りがきっかけで始めたものだという。「チームだけでなく日本中の人たちの思いを背負ってプレーしていると思うようになったので、一礼することを心がけるようになりました」。このような言葉にも、小澤の人間性がよく現れている。

夜も眠れないくらいにワクワク

3回戦を終えたあと、他の取材陣とともに小澤に話を聞く機会があった。口元はマスクで覆われているので確証がもてなかったが、ごくごく普通のやり取りをしているにも関わらず、小澤の目元は笑っているように見えた。「もしかして、笑ってますか?」と尋ねると「はい」と返答。「去年は試合に出られなかったから、こうやって取材をされることがうれしくて」と、再び目を細めた。

ウインターカップを楽しんだ小澤は、試合中も多くの笑顔を見せた

取材対応を含め、初めて主力としてプレーしたウインターカップを、小澤は存分に楽しんだ。体育館内に設置された4つのコートが1つになり、選手紹介などの演出が組み込まれる準々決勝の前日は「夜も眠れないくらいワクワクしていました」と明かし、「会場に入るときが一番ドキドキしました。会場の声援とかが聞こえて、早く試合をやりたいっていう気持ちでいっぱいでした」と声をほころばせる。逆転勝利を挙げた準々決勝の洛南(京都)戦では、勝敗を決定づけるシュートを沈めて観客の大歓声を浴び、福岡第一戦でもチームトップの24得点を挙げ、注目を集めた。

全力で戦い抜き、表情すがすがしく

冒頭で紹介した試合終了間際の一連の行動は、無意識に出たものだという。「監督や西村先生(西村彩アシスタントコーチ)に、『こういうところに人間力が出るよ』と言われていたので。見ている人は見ていると思うし、自分を見て誰かがまねをしてくれたらうれしいです」と話した。

日本一という目標は達成できなかった。しかし、目元を赤くしながらもどこかすがすがしい表情でコートを去り「高校3年間は一瞬でした」と話した小澤は、全力で高校バスケを戦い抜いたことだろう。次の舞台は大学バスケ。大きな体と素直な心をそのままに、大きく羽ばたいてほしい。

小澤飛悠(おざわ・ひゆう) 山梨県出身。甲府市立城南中学出身。ポジションはパワーフォワード。188センチ88キロ。ミニバス時代からアウトサイドのシュートは得意だったが、中学時代はメンバー構成の都合上、インサイドでプレー。高校入学後、わずか1カ月間で体重が8キロ落ちたそうだ。