今日は土用の丑の日。夕食にウナギを食べる家庭も多いのでは。三谷水産高校(愛知)は30年以上ウナギの養殖研究を行っている。現在は、プロでも未だ完全に技術が確立されていない、ウナギをふ化させ親まで育てる「完全養殖」に挑戦中だ。ウナギ養殖に取り組む同校海洋資源科の3年生4人と、長年研究に携わる小林清和先生に話を聞いた。(文・椎木里咲、写真・学校提供)
30年以上ウナギ養殖を研究
―ウナギの完全養殖研究を始めたきっかけは?
小林清和先生 愛知県はウナギの養殖が有名で、本校では1980年代から行っています。2010年に国の研究機関で初めて完全養殖に成功したことをきっかけに、「高校でも実現したい」と研究を始めました。
海洋資源科の1~2年生は授業の一環としてウナギ養殖に携わります。3年生になるとそれぞれ専門的な課題研究を班に分かれ行うのですが、その中の一つにウナギの完全養殖を目指す「ウナギ班」があり、今年は生徒7人が活動しています。
―ウナギの世話の一日の流れや、普段の活動内容を教えてください。
𣘺本桃那(もな)さん 餌やり、ろ過槽のそうじ、換水(水を換えること)は1年生のころからずっと続けています。木曜日には課題研究でホルモンを打ったり、死んでしまったりした個体の解剖をしています。
雌雄を餌でコントロール
―具体的な研究内容を教えてください。
小林先生 どこの養殖場でも、養殖させると90%以上オスになるんです。小さいウナギの段階なら、餌に女性ホルモンを与えることでメス化することができます。今はもっと大きくなったウナギの雌雄を、餌でコントロールできるのか研究しています。
山下耕平さん オスにはオス用の、メスにはメス用のホルモンを週に一回打って成長させるのですが、どの個体も同じ速度で成長するわけではないんです。オスとメスの成熟度合いがちょうど合わないと、受精ができません。土日や休日に受精にぴったりのタイミングが来ると、急に学校に行くこともあります。
稚魚が食べるエサの謎を解け
―ウナギの稚魚のエサについて注目しているそうですね。
伊藤漣さん はい。今一番の課題が、生まれてから「シラスウナギ」と呼ばれる段階になるまでに食べる「初期飼料」です。シラスウナギになるまではふ化してから250日ほどかかるのですが、「その期間のウナギが何を食べているのか」はまだ明確にわかっていません。
そこで注目したのが、「オタマボヤ」という生物です。オタマボヤは「ハウス」という帽子のようなものを持っているのですが、シラスウナギになる前のウナギの胃の中からこの「ハウス」が見つかりました。このことから生まれたばかりのウナギはこの「ハウス」を食べているという説があり、僕たちはこの説を推すことにしました。
そして学校の前でオタマボヤを採取・培養してウナギに与えようという試みをしています。ですが、オタマボヤを培養するのは難しく、成功していません。これが今の課題だと思っています。
養殖に挑戦する先輩に憧れて
―なぜ「ウナギ班」で活動しようと思ったのですか?
馬場詠人さん 高校に入ってからずっとウナギと触れ合ってきて、だんだんと関心が湧いてきました。一つ上の先輩方が「ウナギ班」で活躍しているのを見て、僕も参加してウナギの完全養殖を実現させたいと思いました。
伊藤さん 僕は小さいころから生き物が大好き。身近にいるウナギの生態が未知で養殖が難しいということを知り、ぜひ研究をしたいと思って携わりました。
ふ化後「3週間生存」を目指したい
―ウナギ養殖のやりがいはなんですか?
馬場さん 例えばメス化するホルモンを打ったとして、そのウナギがメス化したら「よっしゃ」と思います。無事にオスとメスが受精できて卵が発生してふ化し、何日も生かすことができたらやりがいを感じます。
―これから達成したい目標を教えてください。
山下さん 現在はふ化してから14日間の生存が最高記録なので、3週間を目指したいです。今ふ化はできているので、これからふ化させた後の餌を研究し、オタマボヤの培養という困難を乗り越えていきたいです。