東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いた町田瑠唯(富士通)に続き、札幌山の手(北海道)から将来が楽しみなポイントガードが生まれようとしている。一昨年の秋、1年生にしてキャプテンに抜擢された森岡ほのか(2年)の奮闘を伝える。(文・青木美帆、写真提供・日本バスケットボール協会)

名将がポイントガードの資質見出す

2020年11月、2歳上の姉・かりん(現北翔大1年)が担っていたキャプテンを引き継いだ。

「驚いたし、あまり自信はありませんでした」

森岡がそう思うのも無理はない。3年生がキャプテンになるのが当たり前の高校バスケット界において、1年生がその役を担うのは異例中の異例だ。同校の上島正光コーチも、50年超にわたる指導者人生で1年生をキャプテンに据えたのは初めてだという。

172センチと長身ながら、多彩なプレーができる

型にはまらない大胆な指導で、町田を筆頭に個性的な名選手を育てた上島コーチ。中学時代はゴール付近でのプレーが多かった森岡に、コートを広く見渡せるセンスを見いだした名将は、彼女を170センチ超の大型ポイントガードにポジションチェンジ。司令塔に必要不可欠なコートを支配する感覚を身に着けさせるために、キャプテンに指名したという経緯がある。

「ほのかはやるべきことを一生懸命やるし、強さも持っている。将来性もものすごく高い。だから、今までとは違う形でやってみようと思ったんです」

百戦錬磨の名将にそう言わせるだけのポテンシャルが、森岡には備わっていた。

力強いゴール下での得点シーン

リーダー、司令塔、ポイントゲッターの3役担い

キャプテン就任直後の12月、初めての全国高校バスケットボール選手権(ウインターカップ)を3位という好成績で終え、代替わり後も引き続きキャプテンを担った森岡は、リーダー、司令塔、ポイントゲッターという3つの立場でチームをけん引。準々決勝で惜敗した21年夏の全国高校総体(インターハイ)の反省を踏まえて挑んだ2度目のウインターカップは、1回戦から20得点と躍動し、インターハイ準優勝校・大阪薫英女学院(大阪)との対戦へと駒を進めた。

チームメートにサインを送る森岡

試合の入りから森岡は激しいマークを受けたが、多彩なスキルと判断力でそれをいなし、得点につなげた。小柄な選手が多い相手の弱点を突き、ゴール下で力強く得点したかと思いきや、ゴールから離れた場所で華麗なドリブルワークとステップでマークを外し、3ポイントシュートを沈める。リバウンドボールのはじく方向、相手のファウルを誘うパスワーク……。プレーの至るところに能力の高さを感じさせた。

劣勢続く中「自分が頑張らなきゃ」

しかし、第2クオーターで相手にリバウンドとディフェンスで大きく上回られたことをきっかけに、以降は劣勢が続いた。森岡自身も、接触を伴う厳しいマークでかなり体力を削られていたが、「ここぞというところで自分が頑張らなきゃチームの流れは変わらない」と気持ちを奮い立たせながら果敢に攻めた。そして、「まだ間に合うよ!」と仲間たちを励ましながら、チームが得意とする速攻の形を作り出そうとした。

2年生キャプテンとして積極的に仲間たちをフォローした

最終スコアは71-89。森岡は39得点9リバウンドという素晴らしい個人成績をあげたが、勝利を引き寄せることはできなかった。試合を終え、応援席へあいさつをすると、目尻に涙が湧き出た。「自分の力不足でこの結果になってしまった。申し訳ないなっていう気持ちと、親や応援してくださった方々に感謝したい気持ちでした」

普段はゆるっとかわいい性格

神田英基アシスタントコーチは、森岡についてこう話した。

「去年はキャプテンと言っても、主要なことは当時の3年生がやっていたんです。だけど彼女たちが引退した瞬間、あの子がそれを全部背負うことになった。たぶんプレーに集中することもできないような時期もあったと思うんですけど、それでも全部受け入れて、悩みながらここまで来たんだと思います」

試合後は自然と涙がこぼれた

試合中は仲間たちと積極的にコミュニケーションを取るが、強烈なリーダーシップを発揮するタイプではない。姉のかりんいわく、「プレー中は厳しいけれど、普段はゆるっとしていてかわいい性格」。気苦労が絶えない日々を支えたのは同学年の仲間たちだったと森岡は言う。

「メンバーに入っていない子も含めて、練習中からすごく支えてくれました。怒られたときやうまくいかないときに、みんなが『ホノならできるよ』って言葉をかけてくれたから、ここまでキャプテンを続けていられるんだと思います」

集大成に向けて「プレーで引っ張る存在に」

年明けからは、いよいよ最終学年としてのシーズンが始まった。「今日(薫英戦)のような展開になっても、声を出してプレーで引っ張っていける存在になりたい」。誰もができるわけではない「1年からキャプテン」を経験してきた森岡が、それを高校生活の集大成としてどのように発揮するかが今から楽しみだ。

もりおか・ほのか 2004年11月18日生まれ、北海道生まれ。札幌市立向陵中出身。札幌山の手女子バスケ部出身の母の影響で、小学1年生からバスケットを始め、ミニバス、中学ともに全国大会に出場。あこがれている選手はOGの齋藤麻未(トヨタ紡織)。「パスもディフェンスも正確なポイントガードです」。172センチ。