国立天文台などの国際研究チームは、131億年前の宇宙で、観測史上最古となる塵(ちり)に深くうもれた銀河を観測したと発表した。チームの研究者によると、従来の研究では想定していなかった種類の銀河であることに加え、「見つかった銀河は氷山の一角」と考えられるといい、これまでの観測では見つけられなかった銀河が初期宇宙に多く存在していた可能性が出てきた。従来の研究の「前提」を覆す観測成果といえ、今後の銀河の探査や、銀河形成の理論に大きな影響を与える発見だ。(西健太郎)

国立天文台・早稲田大の研究員らの成果、「ネイチャー」に掲載

発見したのは、国立天文台と早稲田大学の研究員を兼務して銀河天文学を研究する札本佳伸(ふだもと・よしのぶ)さんらの国際研究チーム。観測成果は、英国の科学誌「ネイチャー」(電子版)に9月22日付で掲載された。

130億年前の銀河を観測する国際プロジェクトの中で発見

銀河研究をめぐっては、過去20年以上にわたり世界の研究者が米国ハワイのすばる望遠鏡や、超高感度のハッブル宇宙望遠鏡などで観測することで、宇宙の初期における銀河の形成や進化の研究が急速に進んでいる。札本さんも、日本など22カ国・地域が協力して運用する南米チリの「アルマ望遠鏡」による大規模観測プロジェクト「REBELS」に参加している。アルマ望遠鏡は、初期宇宙の銀河において星の世代交代によって作られる塵が発する放射や、輝線(原子や分子が特定の波長で強い光を出すこと)を探査できるのが特徴だ。

今回の観測成果の模式図。ハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線の観測画像(左)では、中心やや下に銀河が見えている。今回、アルマ望遠鏡による観測によって、ハッブル宇宙望遠鏡では何も見えていない中心やや上の領域に、塵に深く埋もれた銀河(右上の想像図)があることを発見した。(C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope

130億光年先の天体からの光や電波は130億年かけて届く。130億光年先の銀河を探査するアルマ望遠鏡のプロジェクトは、130億年前の若い宇宙における銀河を探査する研究だ。札本さんは研究対象の銀河の観測データを調べる中で、本来の観測対象から離れた、何もないはずの2つの場所から塵の放射や炭素イオンの輝線を偶然とらえたという。

全く予想していなかった場所に「隠れ銀河」

このことは2つの場所に銀河があることを示すが、遠方銀河が放つ紫外線(宇宙膨張に伴う赤方偏移により、地球から観測すると近赤外線)を観測するハッブル宇宙望遠鏡を用いても何も見えなかった。これは、銀河を完全に覆う塵が紫外線を全て吸収しているからと考えられるといい、研究チームは、全く予想もしなかった場所に「隠れ銀河」があると結論づけた。観測された「隠れ銀河」は、くじら座の方角にある「REBELS-12-2」とろくぶんぎ座の方角にある「REBELS-29-2」。観測結果から距離を測ったところ、「12-2」は、塵に覆われた銀河として観測史上最古の131億年前の銀河であることが分かったという。

アルマ望遠鏡で観測した電離炭素原子からの放射を緑、塵からの放射をオレンジ、VISTA望遠鏡・ハッブル宇宙望遠鏡で観測した近赤外線を青で表現した。これまで存在が知られていたREBELS-12、REBELS-29は近赤外線と電離炭素原子・塵からの放射のいずれも検出されている一方、今回アルマ望遠鏡による観測で発見されたREBELS-12-2とREBELS-29-2では近赤外線が検出されていない。この2つの銀河が塵に深く埋もれているからと考えられる。(C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, ESO, Fudamoto et al.

「見逃されてきた銀河」多数ある可能性

これまでの研究では、初期(遠方)の宇宙における塵に埋もれた銀河は、爆発的に星形成を行っている極めて特殊なケースに限られ、大半の銀河が塵に覆われることなく紫外線による観測で見つけられると考えられていた。紫外線で観測された遠方の銀河には塵があまり含まれていなかったことが理由だ。今回の発見はこの前提を覆す成果だ。

しかも、従来の観測で見つかった典型的な銀河と比較しても変わったところは見られず、これまでの研究が想定していなかった、「初期の若い宇宙において、星形成活動も質量も典型的であるにもかかわらず、塵に覆われている銀河」を初めて観測したことが、発見の意義といえる。

札本さんは「(今回の発見は)これまでの初期宇宙にある銀河の探査では、同じような塵に埋もれた普通の銀河が見逃されてきたことを示す」と、同様の銀河が多数ある可能性を語る。今後は、これまで見逃されてきた新たな銀河がどの程度存在するのかを知ることが課題となる。アルマ望遠鏡に加え、今年12月に米国航空宇宙局(NASA)が打ち上げる予定のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測の成果が期待されるという。また、初期宇宙の典型的な銀河が塵で覆われることを説明する理論モデルはまだないといい、今後の銀河形成の理論研究にも大きな影響を及ぼしそうだ。

今回の発見について、オンラインで取材に答える札本佳伸さん

「面白い予期しない発見があると確信」

札本さんによると、今回の発見はプロジェクトの活動で他の銀河を観測する過程で「たまたま」観測したものであるものの、観測前から「面白い予期しない発見があるだろうということはほぼ確信していた」という。「130億年以上前の宇宙初期の銀河では、我々が知っていることより、知らないことのほうがずっと多いはずなので、予定していた観測や計測から外れたところにきっと本当に面白いものがあるに違いない、といつも考えている」「何か予想外の発見がデータに隠されていないかということから調べ始めると、今回の発見につながった」と研究を振り返った。