話を聞いた柏川伸成さん

2015年には、スーパーカミオカンデの研究で、東京大学の梶田隆章教授がノーベル物理学賞を受けるなど、日本では高いレベルの宇宙研究が行われている。宇宙研究と一口に言っても、宇宙の起源を探る基礎的な研究もあれば、人工衛星など宇宙開発に関する研究まで様々である。今回は、前者の基礎研究は今どのようなものがあるのか、今後はどのような研究が行われるのかを、国立天文台で銀河天文学を研究する准教授の柏川伸成さんに聞いた。(前田黎)

トレンドは宇宙人探しと天体の起源探し

科学の研究では、化学、物理学、生物学など、どの分野でも研究の流行り、トレンドが存在する。柏川さんによると、宇宙の基礎研究のトレンドは2つあるそうだ。

1つは地球外に生命は存在するのか、といういわば「宇宙人探し」。宇宙には自ら光っている恒星とそうでない惑星(=系外惑星)が存在する。例を挙げると、前者は太陽がもっとも有名だ。後者は地球をはじめ水星や火星、金星などが挙げられる。「太陽のように自分で光っている惑星に宇宙人がいるとは考えにくいのですが、系外惑星にはいるのではないかと考えられます」

もう一つのトレンドは、銀河や星などの天体がいつどうやって形作られたのか、という天体の起源を探る研究。「望遠鏡を大きくすればするほど、昔の銀河(=星の集まり)が観測できるのですが、どこまで行っても星や銀河は存在するんですよ。どこまでも星や銀河が存在するからこそ、宇宙最初の星や、銀河を見つけて、天体がいつどうやって生まれたのかを探ろうとしています」

宇宙から天体を観測

今までの宇宙研究は、地上から宇宙の天体を観測していた。観測の性能を上げるには、望遠鏡を大きくするというのが主流だ。しかし今、地球から眺めるのではなく、「宇宙から宇宙を観測する」という方法に変化しつつある。「望遠鏡というと地上から宇宙を見るイメージがあるかもしれませんが、実は直接覗かないんですよ。研究者は望遠鏡を遠隔操作していて、観測したデータをコンピュータに送っています」。具体的には、スペーステレスコープ(宇宙望遠鏡)という宇宙空間で使う望遠鏡を打ち上げ、研究者が地上で遠隔操作をする。そして得たデータを地球に送るのだ。

未知の時間と未知の物質を探る

柏川さんは、主に「暗黒時代」と「暗黒物質」の2つを研究している。

1つ目の暗黒時代の研究は、天体の起源に関わる研究だ。「宇宙はビックバンという現象から始まったのですが、ビックバンが起こってすぐに星や銀河ができたわけではなく、『物質はあるけれど、星や銀河はない時代』がしばらくありました。このような時代を暗黒時代と言っています。暗黒時代からいつどのようにして星や銀河が生まれたのか、とても気になります」

2つ目の暗黒物質の研究は、存在すると考えられているものの、目では見ることができない物質を探る研究だ。「暗黒物質があると言える理由や証拠はいくつかあります。その一つに、銀河の回転速度が挙げられます。物質が少ないと、銀河の回転速度は小さくなります。しかし、光っている物質だけから予測される速度に比べて、はるかに観測される回転速度が大きいんです。つまり回転している銀河の中に、目に見えない物質も含まれていると考えられます」。暗黒物質が何かを探る研究は、世界中の研究者が取り組んでいるものの、まだ正体はつかめていないという。

今後の目標は珍しい天体探し

現在柏川さんはハワイにある国立天文台の施設「すばる望遠鏡」を使って研究している。2012年、すばる望遠鏡にHSC(Hyper Supreme Camera)という新しい装置がつけられた。この装置をつけたことで、より広い宇宙の領域を一度に見られるようになった。HSCを用いて柏川さんは2つの天体を探したいと考えているという。一つは、クエーサーとよばれる天体だ。クエーサーは恒星のように輝いているが、恒星ではない天体で、中心部分にブラックホールを持っている。もう一つは、銀河団(銀河が集まった集団)だ。銀河団はあるところに密集しているが、その集合がいつ、どのようにできたのかは謎に包まれている。クエーサーと銀河団、それぞれの起源や、性質を調べていきたいという。

ハワイにあるすばる望遠鏡(国立天文台提供)