都大路こと第64 回全国高校駅伝(12 月22 日)への出場を決めた草津東(滋賀)。主将の松井政洋(3年)=滋賀・甲南中出身=は県予選で、重圧のかかる1区を1位で走り抜き、チームを6年ぶり3度目の優勝へと導いた。口数の少ない主将が背中で部員を引っ張り、全国上位を目指す。 (文・写真 白井邦彦)
■後輩から「ビシッとして」
今年の男子駅伝チームのメンバーは16人で、3年生はわずか3人。その1人が主将の松井だ。
ぐいぐいとチームを引っ張るようなタイプではない。口数が少なく温厚で「後輩から『もっとビシッと言ってください』と言われることもあります」(松井)という人柄。リーダーシップを発揮した昨年の主将とは真逆で「新チームになって最初のころは、自分が何も言わないことで、練習に甘えを見せる部員もいた」と振り返る。それでも厳しく注意ができず、「とにかく練習で常に自分の限界まで追い込み、後輩の手本になろう」と考えた。
■周りから注目されるチームに
今年の草津東は、運動、食事、休養のバランスを考える「スポーツライフマネジメント」を取り入れ、部員たちは生活のリズムを整えてきた。日々の練習に万全のコンディションで挑むことで、走りの質を高めるためだ。この新しい試みを、自ら規則正しい生活サイクルを心掛けて周囲を引っ張ったのが松井だった。
また、校内ではあいさつを欠かさず、校内清掃にも積極的に参加。「部員以外の人たちから『駅伝チームは頑張っているな』と思われるようにして、常に緊張感を保ちたかった」と言う。口数の少ない主将らしい発想だ。
■自慢の美声で部を和ます
普段から口数は少ないが、ことカラオケになると別人になるらしい。エースの小澤直人(2年)=同・水口中出身=は「今年の夏合宿で松井さんのGReeeeNの熱唱を聴いた。やるときはやるなと。チームの雰囲気が明るくなったし、自分ら後輩も伸び伸びできた」と言う。鎌田広海(3年)=同中出身=が「勉強は……だけど、カラオケはうまい。特にUVERworld(ウーバーワールド)はヤバい」と松井を褒めれば、福島拓哉(3年)=滋賀・甲西北中出身=は「声がキレイ。去年の主将は言葉で引っ張ったけれど、松井は歌で引っ張る感じ」と笑う。
小澤信一監督(56)も「今年のチームはすごく活気がある。松井がいい雰囲気をつくってくれた」とたたえる。周囲を和ませる松井の特技は、意外なところでチーム作りに役立っていた。
■自ら1区を志願 優勝へ
11月3日にあった全国高校駅伝滋賀県予選の数日前。監督は、故障を抱える小澤をレースの流れをつくる1区で使うか、勝負どころの4区で起用するか頭を悩ませていた。そこで松井が自ら1区の大役を願い出た。「主将としてまだ何もできていなかったので、1区を1位で走ってチームに貢献したかった」(松井)
松井は1位でタスキをつなぎ、勢いづいたチームは一度も先頭を譲ることなく優勝を飾る。「今でも主将の手応えはないけど、予選通過で主将の実感は持てた」(松井)。自身初の都大路も、自らの力走でチームを引っ張る。
監督より
小澤信一監督 真面目で伸がある
彼が主将になったとき「難しく考えず、自分のできることをすればいい」と言いました。練習はもちろんですが、それ以外のあいさつや生活態度などもきちんとすることで、後輩から慕われているのだと思います。彼が県予選1区をトップで帰ってきた時は、うれしかったですね。
同級生より
鎌田広海(3年)
気を使い過ぎのところはあるけれど、周りがよく見えていると思う。真面目に練習に取り組む姿勢がすごくて、自分もしっかりしないといけないと思わされることも多い。
福島拓哉(3年)
めったに怒ることはないけれど、一度、練習で怠けている後輩を叱っている姿を見た。駅伝に対する情熱は誰にも負けないと思うし、いざという時は頼りになる主将だと感じた。
部員に聞いた 主将はどういう人?
●普段は面白くて優し過ぎ(笑)。親しみやすくて「一緒に行くぞ!」という感じで引っ張ってくれる。後輩の間で松井さんの話題になると、笑いが絶えない(1年)
●言う時はしっかり言ってくれます。県予選は1位でタスキをつないでくれた。カラオケだけじゃなくて、やる時はやる人だとあらためて思いました(2年)
●チームのことを一番に考え、自分たちの意見を真剣に聞いてくれる。尊敬しています。3泊4日の夏合宿で聴いたヒルクライムが忘れられません(笑)(2年)
チームデータ: 1978 年創部。男子駅伝チーム18 人(3年生3人、2年生6 人、1年生9 人)。全国高校駅伝出場は3度目。2006 年の同大会には男女アベック出場を果たしている。
主将Q&A
◎ 好きな音楽:Hilcrhyme(ヒルクライム)、UVERworld(ウーバーワールド)
◎陸上以外で好きなスポーツ:野球観戦。
北海道日本ハムファイターズのファン
◎座右の銘:全員駅伝
◎目標の選手:大迫傑(早稲田大学)
◎好きな科目:数学
まつい・まさひろ: 1995 年8 月6日、滋賀県生まれ。中学から陸上競技を始め、高校では駅伝のほかに5000㍍走を中心に行う。163㌢、48㌔。