全国高校総体(インターハイ)に3年連続出場した、短距離の高校生トップランナー・小針陽葉選手(静岡・富士市立高校3年)。けがの苦しみを乗り越え、夏のインターハイでは悲願の女子100メートル1位に輝いた。高校3年間を駆け抜けた不屈のスプリンターは、4年後のロス五輪を見据えている。(文・写真 中田宗孝)

ケガに苦しみ「もうやめたい」

「100メートル」「200メートル」の短距離走が主戦場だ。7月のインターハイ女子100メートルでの日本一をはじめ、主要な全国大会で優勝を重ねた。

オリンピック出場を目指す小針さん。さらなる飛躍に期待がかかる

高1のときはインターハイ100メートルと200メートルの2種目で準優勝、国体100メートルで優勝と好成績を次々残し、高校陸上界の新星として一躍注目の存在になった。「1年生のころは順位を強く意識せずにレースで結果を出せました。2年生はインターハイ優勝を明確に掲げていたのですが……」。そう声を落とすように、高2の夏以降は太もものケガに何度も悩まされた。

今年1月上旬から2月末まではドクターストップがかかり、まったく走れない時期が続いた。上半身のみのトレーニングに打ち込むが、「他の部員が走っているのに私は何もできない。そんな気持ちでした」。

完治を目指すため、足の痛みはとれているのに走れない状況にもメンタルが削られた。「部活にも行きたくないし、もう陸上をやめたいと思う瞬間もあって……」と明かす。

「追いかけ走」で走力をみがく

心身ともに追い込まれる中、「希望を感じられたのは走っていいよって伝えられた時ですね」。練習を重ねるうちに本来の感覚を徐々に取り戻し、走れる喜びをかみしめた。「ただ走り始めた直後は『こんなに走れないんだ!』って、少しショックでしたけど(苦笑)」

レース後半の伸びが武器のスプリンターだ

故障明けの練習では「追いかけ走」で走力に磨きをかけた。小針選手の7メートル前から陸上部員に走ってもらい追いかける、レース本番を想定した体にも精神面にも負荷のかかる練習だ。「追うほうが私は燃える。普段のレースでも自分の前を走る選手を追うタイプですし、(同じ陸上選手でもある)6歳上の姉の背中を幼いころからずっと追いかけていましたから(笑)」

良いレースしたときは「飛んでる感覚」

自らの強みは「トップスピードに乗ったレース中盤から後半にかけての伸び」だと話す。爆発的なスパートで周りの選手をグングンと引き離す小針選手の走りは、まるで地面すれすれを高速で飛んでいるかのようだ。「良いレースをしたときは、飛んでる感覚があります」とほほ笑む。

持ち味を最大限に発揮するため、走行フォームの改善を試みてきた。「修正箇所の一つは足の運び。1年生のときは足が後ろに流れていくフォームでしたが、体の前で足が回る動きになる走り方への直しを重ねています」

一つ一つのドリル(走りの基本を身に付けるトレーニング)を丁寧に行い走力アップにつなげている

インハイ決勝「心臓の鼓動感じ」心落ち着かせ

今年7月、インターハイ女子100メートル決勝のスタートラインに立った。出場選手紹介のアナウンスが始まり「On your mark」の指示が入るまでのわずかな時間で、手を胸に当て心を整える。「“緊張しい”なので、心臓の鼓動を感じて自分を落ち着かせます」。時折、目を閉じて「理想のレース展開をイメージして、走り出したら無心」。そして彼女は、誰よりも速く飛んだ。

「去年は決勝に残れなかった。だからチャレンジャーとして臨んだのが、優勝に結びついたと思います。タイム的には満足していません。ですが、ケガを乗り越えて狙いどおりに勝ちきれた。高校時代の一番の思い出深いレースになりました」

ロス五輪を目指す「すげーなって思ってもらいたい」

高校卒業後は大学に進学して陸上を続ける。短距離走など、これまで取り組んできた競技に加えて「ハードル競技も考えてます」と意欲を口にする。「100メートルに関しては、スタートから中盤にかけての走りが課題。まだまだ後半のレースにうまくつながってない」

日本一に輝いたインターハイでも使用したスパイク

大学4年時に開催される28年ロス五輪の出場を見据え、新たな環境で陸上漬けの生活が始まる。「世界で戦える強いランナー」。それが思い描く姿だ。「私の走りを見て、『やっぱ小針ってすげーな。速いんだ。強いんだ』。そう思ってもらえるランナーになりたい」と、目を輝かせた。 

こばり・あきは

2006年12月19日生まれ。沼津市立原中卒。各競技の自己ベストは、100m11秒54、200m23秒52、走り幅跳び6m19。インターハイ100m優勝のほか24年の主な成績は、「U20日本陸上競技選手権大会」女子100m優勝、女子200m優勝。10月に出場した「国民スポーツ大会(旧称:国民体育大会)」少年女子A・100m優勝、成年少年共通女子・4×100mリレーでは静岡チームのアンカーを務め、大会新記録で優勝を果たす。3人きょうだいの次女。162cm。