昨年のインターハイ(全国高校総体)陸上で、男子400mと男子1600mリレーを制した木下祐一(京都・洛南3年)。2連覇を目指した高校最後のインターハイは中止になり、戦うことなく目標は潰えた。コロナ禍で彼が陸上にどう向き合っているのか、話してもらった。(小野哲史、写真は学校提供)

活動自粛期間は家や公園で自主練

―新型コロナウイルスの自粛期間中はどのように活動していましたか?

学校が3月中旬から休校になり、当初ゴールデンウイーク明けだった再開予定は5月末まで延長されました。その間は部活動もできず、顧問の柴田博之先生やチームメイトにもまったく会えない状態でした。

昨年はインハイ2種目で優勝した木下

部員も短距離だけで30人弱いて、先生が一人ひとりに自粛期間の細かい練習メニューを指示することはできませんから、「足りないことをやっておくように」と言われる形で休校に入りました。

―具体的にどんな自主練習をしていたのですか?

僕自身は、場所を取らないチューブを使った補強など、家でできるトレーニングはできるだけ家で行いました。あとは自宅から歩いて行ける近くの公園でメディシンボール投げを取り組んだり、たまに朝など人が少ない時間帯に河川敷で走ったりもしました。

柴田先生とは5日ごとぐらいに電話で、今の状況を報告するなど連絡を取っていました。それ以外にも何かあればいつでも連絡は取れたので、それは安心につながっていました。

インハイ中止 覚悟してたが「どんと衝撃」

―4月下旬にインターハイが中止と決まったときの心境は?

その日に高体連の重要な会議があるということは柴田先生から知らされていて、最終的な中止決定はSNSで知りました。

高校生にとってインターハイは一番大きな目標です。あるのが当然という思いで練習をしていました。会議が持たれるという時点で覚悟はしていましたが、中止が決まった瞬間にどんと衝撃が来たような感じで、喪失感が大きかったです。

昨年のインターハイでの木下

―自分の気持ちとどう向き合いましたか?

インターハイの中止や、部活がなかなか始まらないとか、始まったとしても去年なら大会があった時期にないということで、ネガティブな気持ちも少しありました。でも、そればかり考えて時間が過ぎても他の人と差がついてしまい、自分の競技に悪い影響しかないと思ったので、なるべく考えないようにしました。

チームメイトとは電話やメールで連絡を取り合っていて、同級生の多くは、ずっと悲しみに浸っているというよりは、「次に向かってやるしかない」という話がより多く出ていました。ただ、僕自身は先生やチームメイトに会えないことは、思っていた以上に精神的負担が大きかったです。

スポーツは世の中が平和だからできる

―新型コロナウイルスの流行前後で、意識の面でどんな変化がありましたか?

柴田先生が言っていたことですが、以前まで僕らは「スポーツができて当たり前」と考えていました。ですがこういう状況になると、「スポーツは必ずしも必要なものではない」と制限がかけられてしまいます。「スポーツというものは、世の中が平和だからこそできるもの」だと再認識することと同時に、改めてスポーツに取り組む理由や目標を考えさせられる期間になったと思います。

―練習方法は変えましたか?

練習に関しては、今までやってきたことをこの時期に変えるのではなく、できるだけそのままで続けようという意識でやっていました。もちろん、陸上競技場や練習用具を使えないので、すべて今まで通りにはいきませんが、周りで新たな取り組みをする人が多い中、自分は変わらずにやっていく方がいいかなと。「普段通りができないからこそ普段通りを目指そう」と考えていました。

仲間の顔を見て練習できるのがうれしい

―現在はどのように活動していますか?

6月に部活動が再開されました。まず何より同級生やチームメイトと会ってしゃべって、顔を見ながら一緒に練習できるというのが、当たり前なことですがとても嬉しかったです。

感染症対策は、手洗いやうがい、アルコール消毒は自粛期間と変わらずに徹底していますし、部としては部室の窓は開けっ放しにして、長い時間、室内にいないようにしています。

感染症対策で手の消毒を行う

―先月は試合がありましたね。

はい。7月11、12日には久しぶりの試合として京都選手権に出場しました。3月末に右前腿を痛めてしまい、自粛期間に十分な練習ができなかったこともあったので、今季は長く見て、秋のシーズンでしっかり結果を出せるようにと考えています。ですから京都選手権はそれほど良い結果ではありませんでしたが、落ち込んだりしていません。

今年の目標は、秋のU18日本選手権で優勝することと、400mで45秒台を出すこと。200mも好きなので、こちらでもシーズン後半にタイムを伸ばしていきたいです。

今年だけにとらわれない

―新型コロナウイルスの自粛期間を経て、木下君が得た気づきはありますか?

高校生として一番重要で身近な目標(インターハイ)がなくなったことになりますが、陸上で強くなりたいという思いは変わりません。自分の競技力を向上させるということ自体に目標を置いて意識を高められるようになった気がします。

大学でも競技を続けたいし、日本選手権などで活躍できる選手になっていきたいので、今年だけにとらわれず、長い目で見て強くなっていくにはどうすればいいかを考えていきたいです。

きのした・ゆういち 2002年9月10日、京都府生まれ。洛南中卒。小学5年から陸上を始める。2019年インターハイ男子400m優勝、男子1600mリレー優勝、400mリレー5位。自己ベスト200m21秒30、400m46秒55。175センチ、64キロ。