高校1年次に国体で優勝し、U20世界選手権に出場するなど目覚ましい活躍を見せる陸上・走り幅跳びの近藤いおん(東京・城西3年)。近藤にとって、インターハイは「絶対に優勝しなければいけない大会」とプレッシャーを感じてきた。優勝を逃し涙を流した昨年の悔しさを晴らすべく、練習を重ねてきた。(文・小野哲史、写真・幡原裕治)

悔し涙を流した総体

多くの高校生アスリートにとって、最高峰の舞台と言っていいインターハイ。1年生だった2年前は、南関東大会を2位で突破し、ランキングで全国1位にいながら、インターハイと同時期の開催だったU20世界選手権に日本代表として出場する道を選んだ。

試合に合わせる調整力と勝負強さが持ち味の近藤。高校生の大会では今まで一度も予選落ちしたことがない(2024年6月の南関東大会)

これまでで「一番悔しかった」と語るのが、昨年のインターハイだ。この大会でも優勝候補の一角に挙がっていた近藤は、初出場ながら準優勝と堂々の結果を残した。しかし、「シニアの大会と違って、勝たないといけないプレッシャーがありました。メンタルの弱さが出てしまいました」と悔し涙を流した。「その夜から次の次の日ぐらいまでは、ぼーっとする感じでした」

あれから1年、近藤は日々、心技体を進化させてきた。

助走と踏み切りを意識

練習拠点は、中学1年で入った陸上クラブ「流山ホークアイ」。試合の有無で日数に変化はあるが、週5日の練習のうち、2日はかつて国内トップレベルで活躍した猿山力也コーチからマンツーマンで指導を受けている。

昨年のインターハイは2位で悔しさを味わった。高校生として最後になる舞台では雪辱の優勝を誓う(2024年6月の南関東大会)

「練習で意識しているのは、助走と踏み切り。走り幅跳びの助走と短距離では走りが違います。速く走り過ぎても駄目なので、練習では助走につながる走りを目指しています。一回一回コーチが撮ってくれる動画を見返して、『ここはこうした方がいいね』と、1本ずつ修正することを繰り返しています」

地道な練習の積み重ねで、近藤は中学時代から全国のトップレベルで活躍してきた。これまでで会心だった試合は、高校1年の4月に6m13(-0.5)を跳んだ東京選手権と、6m07(+2.5)で優勝した10月の栃木国体だ。

「東京選手権は、その後の日本選手権やU20世界選手権出場につながりました。国体は土砂降りだったにもかかわらず、他の選手が良い記録を出していた中、5本目に良い跳躍ができました。1年生で国体優勝というタイトルを取れて自信になりました」

2度出場した日本選手権も、一昨年のU20世界選手権も、トップ選手のレベルの高さを肌で感じた。しかし同時に「強い選手は、競技に向き合う姿勢や記録を出すという意欲が自分とは違った」と学ぶべき点も多かった。

都高校新記録を更新

さまざまな経験や厳しい冬季トレーニングを経て、近藤は「6mを超える試合が増えて、冬季の成果が出てきた」と手応えを感じている。インターハイへとつながる5月の都大会では、5本目に2年ぶりの自己記録更新となる6m14(+1.4)をマーク。最終跳躍では都高校新の6m22(+0.9)まで記録を伸ばして快勝した。

「運よく、気象条件が1週間前の水戸招待グランプリと似ていました。水戸では追い風の時の助走が修正し切れませんでしたが、その経験があったおかげで、追い風での助走の作り方や中間走のスピードの乗り方がうまくできたと思います」。近藤は6月16日の南関東大会でも6m12の大会タイ記録をマークして優勝。危なげなくインターハイ行きを決めた。

仲間の姿見て奮い立つ

南関東大会で城西は、近藤を含め、11種目でインターハイ行きを決めた。日頃、練習を共にしているわけではないが、他の陸上部員の存在は、近藤に「自分だけじゃない」と思わせてくれるという。

走り幅跳びの魅力を「跳んだ時の『おぉー!』という歓声や記録が出た時の喜び」と話す(2024年6月の南関東大会)

「同じクラスにいるロス瑚花アディア(3年)は、女子100mでインターハイ優勝を目指していて、陸上の話もよくします。そういう子が近くにいると、遊びたいなと思った時も『アディアも頑張っているから』と自分を奮い立たせてくれます」

将来の具体的な目標や夢はまだないが、「今、陸上に『ドハマリ』していて、四六時中、陸上のことを考えています。その熱が冷めるまで、永遠に走り幅跳びをやっていきたい」と笑う。「家で走り幅跳びの動画を見ますし、歩いている時も、『こうしたら踏み切りがうまく行くかな』とか『次の試合ではこんなことをやってみよう』とずっと考えています」

ドハマリするほどの走り幅跳びの魅力は、一体どこにあるのか。

「走り幅跳びは助走、踏み切り、跳躍という三つの要素が全部そろった時に記録が出ます。跳んだ時の『おぉー!』という歓声や記録が出た時の喜び、あとは試合で1本跳ぶ前に自分で意識を集中して、そこだけを考えて跳躍できるところが魅力です」

日頃、歩いている時から「こうしたら踏み切りがうまく行くかな」などと考えているほど陸上にハマっている(撮影・小野哲史)

昨年までは「シニアや世界で戦っている分、同世代の子には負けられない」と、インターハイは「絶対に優勝しなければいけない」大会だった。それが今は、「優勝以外は考えていませんが、そこに特別重きを置いているわけでもありません」と良い意味で全く力んでいない。その心の持ちようが、近藤の充実ぶりを支えている。

こんどう・いおん

2006年4月17日、埼玉県生まれ。彦成中卒。流山ホークアイ所属。小学5年で陸上競技に出合い、中学1年から流山ホークアイで、かつて国内トップレベルで活躍した猿山力也コーチに指導を受けている。2021年全日本中学校大会2位。22年U20世界選手権出場、国体優勝、U18大会優勝。23年インターハイ2位。165センチ、54キロ。