保土ケ谷高校(神奈川)陸上競技部は、私立強豪校がひしめく県大会や南関東大会で近年、存在感を高めている。今年度も男子4×100mリレーを始め、6種目でインターハイに出場し、全国の舞台で奮闘した。躍進を続けるチームについて、主将と監督に聞いた。(文・写真 小野哲史)

平凡な選手から全国レベルへ成長

強豪校のように、中学時代から全国区で活躍してきた選手はほとんどいない。全国中学校大会に出場経験があるのは、主将で砲丸投と円盤投の小島平さん(3年)と、100mの佐々木寛大さん(2年)の男子2人のみ。

それでも毎年、多くの選手が自己記録を大幅に更新し、関東や全国の舞台で活躍していく。部のOBには日本代表に選ばれ、世界の舞台で戦った選手もいる。

陸上競技部顧問の竹内俊樹先生(右)と主将の小島平さん

常に試合をイメージする

男子短距離の塚本蘭天生(らんでぃ)さん(2年)も、中学までは100m12秒34という平凡な選手にすぎなかった。しかし、自身が「この1年で着実に成長できている」と話すように自己記録を10秒83まで短縮。今年度は4×100mリレーと4×400mリレーの2種目でメンバー入りするまでの主力となった。近年の飛躍について、小島さんは「チームとして本番に合わせる力が高い」と感じている。

「例えば2年前の4×100mリレーは、県大会と南関東は5位通過でしたが、インターハイは6位に入賞しました。南関東までは通ればOKと割り切り、全国のここ一番というレースに合わせて力を発揮できた良い例です。いつも試合をイメージしながら練習に取り組み、体のケアへの意識が高く、けがが少ないからだと思います」

【1日のスケジュール】「自分に足りないもの」と常に向き合う

専門種目によって、短距離、中長距離、競歩、跳躍、投てきといったブロックに分かれ、日々の練習は主にブロックごとに行う。短距離や跳躍ブロックは週4日、放課後に競技場に移動して練習するが、小島さんらの投てきブロックは学校練習が基本。「週4日行う朝練では投げ練習が多い」という。

「投てき種目は投げられて、跳べて、走れないといけない」という考えから、ウオーミングアップから三つの動きを磨く。投げ練習は1本ずつ集中して行い、砲丸投と円盤投がメインの小島さんは「朝練で円盤を、放課後に砲丸を投げる(あるいはその逆)」のがよくあるパターンだ。5時間授業の日は約1時間早く部活動を始められるので、その分、投げ練習やウエートトレーニングの時間を増やす。

砲丸を投げる小島さん。1本ずつ集中して練習に臨む

学校が休日の土曜日は、朝8時半から14時まで練習する。顧問の竹内俊樹先生は競技場で他ブロックを指導する場合が多いため、投てきブロックは「自分たちは何が足りないかを各自で考えながら取り組んでいる」(小島さん)という。

昨年11月頃からの今春にかけてのオフシーズンには、円盤投で普段使っている1.75kgより重い2kgの円盤で投げ続けた。そうした工夫の成果が今年度、2種目でのインターハイ出場という好成績につながった。

<投てきブロックのある日のスケジュール(6時間授業の日)>

7時00分~8時30分 朝練(投げ練習)

15時30分 授業終了

15時45分 着替え、用具の準備などを終え、各自ウオーミングアップ(ハードルをまたいだり、くぐったりして体をほぐす。メディシンボールを投げ合う。坂ダッシュ、逆立ちなど)

16時30分 フォームの確認や技術、筋力向上のためのドリル

17時00分 投げ練習

18時30分 スクワットやベンチプレスなどのウエートトレーニング 

19時00分 練習終了、片付けや着替えを済ませて下校

【インターハイに向けた流れ】練習に「緊張感」を持つ

一人一人が自己記録を伸ばしつつ、より多くの選手を南関東大会やインターハイに送り込むという目標は、毎年ずっと変わらない。その上で今年度は、リレーでのインターハイ入賞を最大の目標に掲げ最大の目標に掲げ、4×100mリレーではチーム最高の40秒32をマークして8位入賞を果たした。

主に冬季の鍛錬期や試合期に向けた移行期など、時期によって練習メニューを変えるチームが一般的だ。だが、保土ケ谷は「年間を通してやることがあまり変わりません」(塚本さん)と明かすように、毎日同じ練習を淡々と繰り返す。年に数回、大学の練習に参加させてもらう時はあるが、保護者の負担なども考慮し、部として合宿を行わない。

短距離ブロックでは、効率的な動きを身につけるためのドリルや、等間隔で置かれたマーク間を一定のストライドで走るマーク走、正しい動きを意識して走る流し、バトン練習といったシンプルな練習をとにかく継続するのだ。

マーク走の練習風景。毎日同じ練習を繰り返し、力を付けるのが保土ケ谷の特徴だ

佐々木さんは「自分は4×100mリレーの1走なので、バトン練習では常に全体がよく見える。後ろからアドバイスをしたり、集中が足りていない時に声掛けをしたりしています」と話し、リレーチームとして手の高さや出し方など細かいところまで徹底してバトンの完成度を上げている。「ミスをした時はバトンの渡し手ともらい手の2人が腕立て伏せをするなど、緊張感を持って取り組んでいます」

リレーのバトン練習は細かい部分まで徹底してこだわる

【年間スケジュール】大会から逆算して練習メニューを構築

投てきブロックの小島さんは重要な試合がある場合、そこから逆算して考える。6月の南関東大会に向けては、「朝練で円盤の動きを整え、午後は不安のあった砲丸投をフォームを意識して多めに練習しました。1週間前からウエートトレーニングの質を少しずつ落としていき、本番を良いコンディションで迎えられました」と振り返る。 

<年間スケジュール>

4月 神奈川県記録会

5月 神奈川県高校総体

6月 関東高校総体

7月 全国高校総体(インターハイ)

8月 神奈川県記録会

9月 神奈川県高校新人

10月 関東高校新人 U16、U18ジュニアオリンピック

11月 エコパトラックゲームス

12月 関東合宿(日本陸連U-19強化合宿)

3月 全国合宿(日本陸連U-19強化合宿)

【上達のコツ】力のある選手と一緒に走る

部員の半数近くを占める短距離ブロックには、100m10秒台の選手が数人いる。スピードのある有力選手と一緒に走ることで着実にレベルアップができる。竹内先生が各選手のデータを日頃からこまめに分析。過去の先輩の伸び率などと比較しながら成長できる環境がある。

ただ、真摯(しんし)に陸上競技に向き合いながらも、部活動だけ頑張ればいいとは考えていない。小島さんは「竹内先生からはよく『応援されるような選手になりなさい』と言われます。あいさつはもちろん、文武両道を目指して勉強もできる限りしっかりやる。テスト前には勉強会が開かれます。竹内先生は数学教師なので、不安な人は教えていただいています」

試合前に円陣を組む選手たち(学校提供)

「私が教員になって意識しているのは、何かに本気で打ち込む行動が人としての成長に重要ということ。陸上で結果を求めるのは最低限。今、本気になれなければ、社会人になって仕事でも本気になれないと思っています」 (竹内先生)

陸上競技も学校生活も全力で。その姿勢がある限り、保土ケ谷陸上競技部はさらに高みへと駆け上がっていくだろう。 

保土ケ谷高校陸上競技部

保土ケ谷高校陸上競技部(学校提供)

学校設立と同じ1979年に創部。部員83人(3年生15人、2年生25人、1年生43人)。インターハイは32年ぶりに出場した2021年以降、毎年選手を輩出している。練習場所は学校、大和なでしこスタジアム、海老名運動公園陸上競技場、等々力補助競技場など。