久保凛(大阪・東大阪大学敬愛高校3年)は、陸上女子800mで日本記録樹立、種目初のインターハイ3連覇、日本選手権2連覇と前人未到の快進撃を続けている。圧倒的な強さを支えているのは 、リラックスするメンタル術と週3の朝練にあった 。(白井邦彦)
初めての世界陸上「幸せでいっぱい」
9月、東京・国立競技場に集まった5万の観衆は、ヒロインの登場に沸いていた。自身初の世界陸上、自国開催という特別な大会でもあった。「競技場に入った瞬間にすごい歓声が聞こえました。みんなが自分を応援してくれている。ここで走れることがうれしくて、幸せな気持ちでいっぱいでした」
出場した女子800mでは予選敗退したものの、「世界と勝負できたからこそ力不足を感じられた。出場自体がいい経験だった」と振り返る。
「負けず嫌い」が強さの秘密
今年は、インターハイ3連覇のほか、日本選手権2連覇を達成した。2年生の7月、日本の女子選手で初めて1分台での日本記録を樹立したが、3年生の7月にはこの自身の記録を更新。立て続けに好記録を出している。最大の要因は「負けず嫌い」なメンタルにある。それを良い方向に向かせることができる「明るい」性格も強さのようだ。
期待が無意識のプレッシャーに
だが、今シーズンが始まる前は、少しネガティブな時期もあった。「今まで大きな挫折もなく、調子よく過ごせています。ただ、高校3年の最初の方は優勝できるかなとか、タイムを出せるかなとか不安でした」
明確な原因があったわけではないが、快進撃を続ける中で、周りの期待が無意識の内にプレッシャーへと変わっていったのかもしれない。5月、大阪・木南記念陸上ではまさかの2位だった。
「絶対に世界陸上の参加標準タイム(1分59秒00)を切るぞ! という気持ちで臨みました。でも、気負いになってネガティブな方に働いてしまいました。前日までの練習で調子がよかった分、ちょっと落ち込んでしまいました」
タイムは忘れて「日本代表を楽しむ」
嫌なムードが漂う中、「挑戦を楽しむ気持ちを忘れている」と気づき、原点回帰を試みた。「初めて日本代表(年代別は除く)として挑んだ5月のアジア選手権では、いったん、タイムとか順位とか全部忘れて、日本代表というのを楽しんでみようと。結果は2位でしたが、すごくいいタイム(2分00秒42)でしたし、純粋に走ることが楽しかった。やっぱり私は何も考えずに走った方がいいんだなと気づきました」
調子を取り戻し、7月の日本選手権で2連覇を達成。自身の日本記録も更新(1分59秒52)し、ついに世界陸上の挑戦権を手にした。メンタルを持ち直せたことが功を奏した。
愛犬と遊んで「リラックス」
メンタルを強く保つコツを聞くと「リラックス」というワードが出てきた。体幹がブレない独特なフォームは、メンタル面と切ってもきれない関係にあるという。
「高校に入って体幹が強くなったことも影響はあると思いますが、どちらかといえば練習を重ねる中で自然と出来上がった走り方です。そしてリラックスできていないと走りがブレてしまうので、やっぱりメンタルが大切です」
リラックスするため、オフの過ごし方が重要だという。「部活が休みの日は愛犬と遊んだりしながらゆっくり過ごす場合が多いです。実はインドア派というのもありますが、心身をリフレッシュさせる意図もあります」
1500mのジョグが800mに生きる
週3日の朝練で行うジョグも、平常心を保つ上で大切だと言う。「(顧問から)1500mを走れないと800mは走れないと言われます。朝練では1500mがメインの選手たちと同じようにジョグで距離を踏むことを意識しています」
部の方針としてシーズンインは全員で1500mのレースに出場するという。「私も1500mに出ます。朝練では1500mの選手よりも踏む距離は短いですが、ちゃんと練習をしますから。また800mは1500mの半分くらいの距離なので、1500mをしっかり走れると800mは楽に感じられます。結果的にレースでのリラックスした走りにつながっていると思います」
「強いメンタル=リラックス」と伝えたいわけではない。世界の舞台で戦う久保でさえ、何もせずに強いメンタルを保(たも)てるわけではなく、日頃から準備が必要なのだ。
- くぼ・りん 2008年1月20日生まれ、和歌山県出身。潮岬中学出身。中学1年から本格的に陸上競技を始め、中学3年の「全日本中学校陸上競技選手権大会」女子800mで優勝(2分9秒96)。24年7月の「2024年度第1回長距離強化記録会」にて19年ぶりに日本記録を更新。168㎝。


















