オススメの小説を高校生記者のぐらのさんに紹介してもらいました。

優しい少女の幽霊と交流

君にさよならを言わない』七月隆文著(宝島社文庫、670円=価格は1巻、税抜)

『君にさよならを言わない』は、主人公・明と幽霊たちとの交流を描いた連作短編小説です。

幽霊と聞いて、皆さんはどんな姿を想像しますか? きっと、お化け屋敷に出てくるような怖い姿を思い浮かべる人が多いと思います。ですが、この小説に登場するのは、優しくてかわいらしい少女の幽霊たちです。

『君にさよならを言わない』七月隆文著(宝島社文庫、670円=価格は1巻、税抜)

少女たちの心の機微が繊細につづられているため、物語の温かさと切なさが心に深く染み渡ります。連作短編ならではのテンポの良さもあるので、小説を最後まで読み切れる自信がない人でも、気楽に手に取ることができます。

幼なじみの魂を救う

明が出会う1人目の幽霊は、6年前に死んだはずの初恋の幼なじみ・桃香です。桃香との再会を喜ぶ明でしたが、桃香がある未練を残してこの世に留まっていることを知ります。明は彼女の魂を救うために、6年前に交わしたある約束を果たします。

印象に残っているのは、自分の死を受け入れて、この世を去る覚悟を決めた桃香の言葉です。

「この世界はきれいだね。」「そこに生きてるって、ほんとうに素敵なことなんだね。」

生きていると忘れてしまいがちな、ささいな幸せ。その輝きや大切さに気付いたのは、死んだ後だった、という桃香の言葉に心を動かされます。

日常のなにげない幸せに気づいた

私はネガティブに考えがちで、悲しいことやつらいことを重く受け止めてしまいます。そんなときにこの小説を読み返すと、なにげない幸せに目を向けられるようになり、気持ちがふわっと軽くなります。

外出自粛や学校の休校で、今まで当たり前にできていたことができなくなった経験をしました。友達と大声で笑い合うこと、うれしくなってハイタッチすること、一緒にお弁当を食べること。そんな「当たり前」こそが幸せだったのだと実感しています。

「当たり前」という幸せを発見しやすい今だからこそ、皆さんに読んでほしい一冊です。(高校生記者・ぐらの=1年)