増井真那君(東京・小石川中等教育学校6年=高校3年)は、子どもの頃から変形菌(粘菌)研究に全力を注いでいる。変形菌は単細胞の「変形体」が、多くのキノコのような「子実体」に変わり、子実体から「胞子」を飛ばして増える。姿を変える生き物だ。粘菌とも呼ばれ、腐った木や枯れ葉にいることが多く、森や林だけでなく住宅地などにも生息しているという。

不思議な菌に魅了され

5歳の時に見たドキュメンタリー番組で変形菌を知った。その不思議さに魅了され、さっそく母と公園に探しにいったが見つからなかった。それでも諦められない様子を見た母が、日本変形菌研究会を見つけ、同会に参加するようになった。小1でその行動を研究し始め、小3から「変形菌は自分と他者をどう見分けるのか」というテーマで現在まで解明に取り組んでいる。

「きれいで、かわいい」

研究は主に自宅で行うが、遺伝子解析などは研究を通じて知り合った大学の研究者と共同で行う。同校で指導する加藤優太先生は「自分の研究を発信することが上手で、大学の先生方を巻き込みながら研究を発展させた。このコミュニケーション能力の高さこそが、研究者としての一番の武器だ」と評価する。

2年前には飼育生活と研究をまとめた本を出版。昨年には国際的な学術雑誌に査読論文が掲載された。最近はテレビやラジオにも出演し、一般を対象とした講演なども行う。「変形菌は不思議できれいでかわいい。その魅力をたくさんの人に伝えたい」

日本一の科学研究に

8月に神戸市で開催された「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)生徒研究発表会」(文部科学省など主催)では、「変形菌イタモジホコリの変形体における自他認識行動」が最高賞の文部科学大臣賞を受賞した。変形体が分泌する年液鞘(しょう)という粘り気のある物質の役割について発表した。

先行研究から、変形体は遺伝子の位置が一致する個体とのみ、融合することが知られていた。実際に2体の変形体を出会わせると、相手の細胞膜と接触する前に融合か回避か判断する動きをすることがあるが、判断のしくみは分かっていなかった。そこで増井君は年液鞘が自他を認識するシグナルとしての役割を持っていると仮説を立て、関東や四国など産地の違う5株の変形体を使って実証した。(文・写真 木和田志乃)

ますい・まな 

2001年東京生まれ。08年から変形菌の研究を始める。17年に単著『世界は変形菌でいっぱいだ』(朝日出版社)上梓。18年、変形菌の自他認識に関する査読論文が Journal of Physics D: Applied Physics に掲載。19年Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」、TBSラジオ「久米宏 ラジオなんですけど」出演。講演・学会発表・受賞多数。