■最優秀賞 「三十六度五分」 神奈川県立麻生高等学校 二年 南部 有枝
きれいな手だね
色が白くて
しわもなくて
すべすべしてる
わたしも若い頃は
同じ手をしていたんだよ
何回も言われたその言葉
祖母の想いは繊細で
重みがあった
あなたが生きた世界は
激動の時代
十代で両親と別れ
田舎に疎開
空襲で学校の窓ガラスが割れた
写真館で働き
写してきた人の笑顔に
何を思ったのだろう
駆け落ちをしてまで
祖父との家庭を築き
二人の子どもを育て上げた
あなたのその手は
大切な人を
傍らで支え続けてきた
刻まれたしわは
その歴史を物語る
その歴史なくして
わたしはいない
手を伸ばすだけで
何も出来ない
わたしの手
父の汗
母の涙で
きれいに見えるだけの
わたしの手
月日が経てば
わたしの手にも
しわが刻まれる
わたしは一体
幾人の人を
そっと包み込んであげられるのか
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■優秀賞 「言葉よ」 東京・女子学院高等学校 一年 栗山 茜
生まれ落ちた瞬間から
オギャアというそいつを口に出したせいで
誰もがそいつと付き合いながら歩む
昔は人付き合いもよく素直だったのに
身の丈以上の、ちょっと高度なそいつを使いだす頃から
そいつは加速度的にひねくれていくもの
くだらない話のときだけやたらと乗り気だが
ここぞという時には決まって
人は、そんなそいつをうまく操れず落ち込む
時には人に癒えない傷を残したり
目立ちたがりの精神やら不注意やらでトガってみたりしてくれる
本当にむずかしい奴なんだ
けれど、皮肉なことにそいつに心を動かされることもある
時間と労力を惜しまずに、隠し事なしで真っ向から、腹を割って話せば
力あるそいつは、潜在能力を存分に発揮し
ようやく人を魅了する
といってもそんなことは稀だから
人は苦労する、ばたばたと失敗する
でもそいつなしには生きていけない、彩られない人生
だからそいつに、願う
そいつの、原石のような、秘めた力を
信じているからこそ
今もこれからも
その場しのぎや間にあわせで体を塗り固めちゃいけない
綺麗でなくていい
美しく熟れていってほしいのだ、
言葉よ
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■優秀賞 「ボトル」 広島・広島文教女子大学附属高等学校 三年 中村 祐梨香
心の中にあるのはいくつものコルクの付いたガラスボトル
私はその中に少しずつ
思い出という金平糖を入れていった
幼稚園の頃のボトルには
白や黄色の金平糖が閉まらないくらいに入っていた
無邪気で何も考えず楽しめていた明るい希望があったのかな
小学校の頃のボトルには
まるでグラデーションのように
明るい黄色から暗い水色に変化していく
身体も心も成長して未来が不安になっていたのかな
中学生の頃のボトルには
まるで虹のような色すべての色がグチャグチャと入っていた
気持ちがコントロールできない苦しみと
友達や部活の楽しさでいりまじったのかな
そして私は今高校生の頃のボトルに
ふたをしようとしている
優しい色で埋め尽くされているこのボトル
私の心のボトルの中で一番きれいかもしれない
たまにある水色の金平糖は心の壁を越えた認定書
いろいろな人に出会い
いろいろなことをすることができるようになった今
このビンを眺めていた
私は成長しているのだろう
このボトルにふたをしたとしても
思い出は金平糖となり
積み重なっていく
ボトルの中に天体を作りあげていくように
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■佳作 「新旧合戦」 千葉県立安房高等学校 二年 庄司 真由子
私は昔から、この街を見守ってきた。
東京のシンボルとも言われ
たくさんの人から愛されてきた。
赤い体にスラッとした形
長身の私は、たくさんの人に見上げられ
何十年も生きてきた。
しかしいつからか、私のように
背の高いスマートな奴が
私の視界に入るようになった。
うわさだとそいつは、
色白で長身だと言うじゃないか。
しかし心配はいらない
私よりも高い背のやつは見たことがない。
私が一番かっこいいんだ!
日がたつにつれて、
私の周りから人がいなくなっていく。
なぜだ?私は一生懸命考えた。
ふと辺りを見回すと…
色の白い長身の「あいつ」が
堂々と立っている。
私を見上げていた人たちは、
さらに顔をあげて「あいつ」を見ている。
そいつは、私よりもずっと背の高いやつだった。
いつしか東京のシンボルは彼になり
私の役目はもう終わり。
今まで見守ってきたこの街を
君に渡すことになる。
東京を頼んだぞ。
東京タワーとスカイツリー
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■佳作 「まるのなかみ」 神奈川・鎌倉女学院高等学校 二年 三吉 はるか
おはようって言う人の後ろ側に
おやすみって言う人がいる
寒いからコートを着て手袋もしよう
と思う人の後ろ側に
暑いから靴下も脱いで海にでも行こう
と思う人がいる
ひなたぼっこをしてる人もいれば
その反対側で
恐ろしい火の弾(たま)から逃げる人もいる
朝も夜も
暑さも寒さも
平和も恐怖も
全てが同じ場所にある
ここも
むこうも
みんなまるい地球の中
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■佳作 「風少女」 埼玉県立浦和第一女子高等学校 二年 加藤 由梨
私は風
私は独りで吹き抜ける
私は何にも阻まれず
行きたいところに飛んでいく
どこまでもどこまでも
私の求めるその先に
何があるのか知りたくて
私を止めると言うならば
光の速さで追いかけろ
ある時は、薄桃色の香りを運び
新しい季節の訪れを喜んで激しく凪ぐ
その胸にあるは萌え出づる新芽のような希望
ある時は、太陽の光を一身に浴び
自らも炎となって火の粉を散らす
燃え上がる熱き意思は鋼鉄も溶かすほど
ある時は、落ちた枯れ葉と共に踊り
紅の夕日に映ゆる街や山を駆け抜ける
恋慕の情に火照る頬は熟れた果実のよう
ある時は、湖の漣を沈黙に変え
夜は暖を求める生命をしんしんと冷やす
漠々とした空にうつるは理由なき不安
私は風
誰より速く走りたい
誰より先にたどり着きたい
誰より色濃い瞬間を
誰より多くの輝きを
私自身の手で掴め!
私自身の足で翔けろ!
ほら、いつのまにか、
光より速く走っていた
十七歳の風になって
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■佳作 「誰一人として」 岩手県立福岡高等学校 三年 福田 恵
私たちは誰一人として 口を開けてはならない
ただ口をとざして 目の前に 茫洋と広がる死を 悼むのだ
悲しみの渦中に眠る顔を 眼に焼き付けよ
私たちは誰一人として 勇気を忘れてはならない
紙とペンを携え 歴史に立ち向かった人々を
澄んだ瞳に いくつの戦場がよみがえるだろうか 或いは 母子の骸を
私たちは誰一人として 眼を背けてはならない
絵画にならない現実 活字にならない世界から とろけてなくなる夢に
硝煙立ち上る空に 知っている青は在るだろうか
私たちは誰一人として 逃げてはならない
いかな虚構も歴然たる現実に及ばない 道程は何も言わず 待っている
刮目せよ 命ある限り 希望を見よ
私たちは誰一人として 絶望してはいけない
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■佳作 「自分探し」 茨城県立水海道第一高等学校 二年 齋藤 明葉
自分は誰だろう?
ふとそう思った
さっきまでいた自分
それは本当の自分だったのか
ここは何処だろう?
真暗だ
なんにも見えない
足下さえも見えない
私は叫んだ
「私は誰ですか?」
「ここは何処ですか?」
――――返事はない
こだまだけが聞こえてくる
それでも私は叫び続けた
何度も、
何度も、
聞こえてくるのはこだまだけ
私は走った
本当の自分に会えることを信じて
何処かにたどり着くことを信じて
――――先が見えない
何も見えてこない
それでも私は走り続けた
つまずいて転んだりもした
何度も、
何度も、
見えてくるものは何もない
叫んでも叫んでも
走っても走っても
見つけられないのだろうか?
本当の自分
自分の居場所
それでも私は
叫ぶ、
走る、
この先に光があることを信じて
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■入選
「青春」千葉県立安房高等学校 二年 平野 加奈子
「花瓶」国立北九州工業高等専門学校 三年 山本 雅樹
「なくしもの」東京・渋谷教育学園渋谷高等学校 三年 齊田 もも
「私の詩」千葉県立安房高等学校 二年 伊藤 天
「制服」熊本・ルーテル学院高等学校 三年 緒方 愛子
「もの忘れ」茨城県立水海道第一高等学校 二年 梅沢 泉
「家族のふるさと」広島県立西条農業高等学校 一年 宮田 崇代
「透明な壁」千葉・聖徳大学附属女子高等学校 一年 西尾 蒔紀
「偶然・・・それとも」兵庫・神戸朝鮮高級学校 二年 郭 順衣
「侵食」富山県立高岡工芸高等学校 二年 西川 郁美